北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

恐るべしマンティス

まったくの勘違いかもしれないけれど、最近、実はうちの相棒のファンが少なからずいるのでは、と思い始めたので、調子に乗ってまた相棒ネタを。

相棒の隠れあだ名はマンティス(かまきり)である。私がしごく勝手につけたもので、それは相棒が蚊が大嫌いで、その動きにじつに敏感に反応することに由来する。

ひとたび蚊が出現したが最後、とっちめるまで気が済まない。
とくに電流が流れるタイプの、蚊を退治するためのバドミントン風ラケットを振りまわし始めると、目が人間離れした機敏さで動き始め、まさにかまきり。
その状態に入ると、どんなに重要な会話も仕事も、相棒はピタリと中断する。

その緊迫した空気につられ、身体のあらゆるパーツが「アンチ体育会系」の私も、つい固唾を飲む。

とても一緒に捕まえる気にはなれない。いや、捕まえようとしたら「邪魔した」と怒られかねない。
それでふと、
「じつは、本音のところは、蚊が大好きなんでしょう?」
とからかってしまう。

でも、相棒はふふふと笑うばかり。
というわけで、両者の関係はいまもって謎だ。

そんな相棒の「シーズン」が、今年もいよいよやって来た。
それを実感したのが今晩の会話。

今日の日中、相棒はずっと家にいなかったのだけれど、帰って来た途端にひとこと。
「今朝、蚊がいただろう。お前を刺してたぞ」と言ったのだ。
「ただいま」のすぐ後に。

「えー、本当?ぜんぜん気づかなかった」
「いや絶対にいた。顔に刺された痕もできてた」
「ほんと? ぜんぜん覚えてないよ。見て分かるくらい腫れてたの?」
「そうだ」

私はほんとうにまったく覚えていなかった。
さらに可笑しかったのは、その後の会話。
今朝、私が話したことを、相棒はすべて、見事なくらいとんちんかんにしか覚えていなかったのだ。
思わず噴き出す。
「なんで、私が今日『誰』と『どこ』で『いつ』会うかを、ぜんぶ勘違いしておきながら、蚊のことばっかりそんなにはっきり覚えているの!」

ちなみに、前も書いたけど、結婚五周年の去年、私が相棒に贈ったのは、蚊帳だった。
あれはもしかしたら、隠れジェラシーの表れだったのかもしれない。

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おまけ
NHKラジオテキスト「まいにち中国語」の五月号の口絵とエッセイでは、福建の土楼を紹介しました。こちらの試し読みで口絵のみ見ることができます。

http://sp.nhk-book.co.jp/text/detail/index.php?webCode=09101052015

ちなみに先日の読売の書評が、HONZにも転載されたようです。
http://honz.jp/articles/-/41401
でもこのHONZ自体は、本代がこれ以上かさむのを恐れている私には、正直言って禁断のサイトかもしれません。