北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

国際人形劇フェスティバル UNIMA2012 

先週末、開封、四川への旅から戻りました。
基本的には取材旅行でしたが、趣味もちょっぴり兼ねていました。
最大の目標は、今回初の中国での開催となった国際人形劇フェスティバル「ウニマ2012」。
世界45カ国から65の人形劇団体が参加し、舞台で演じるという大イベントで、
チェコの操り人形の大ファン、かつ中国の影絵人形や操り人形にも魅せられている私にとってはまさに「猫にまたたび」的な催しでした。

メイン会場は成都市内にある「国際非物質文化遺産(世界無形文化財)博覧園」。ここの他にも、市内の劇場や学校などが舞台となったわけですが、

スケジュール上、開幕初日を逃した上、公演を観るため、広大なメイン会場だけでなく、成都市のあちこちを駆け回るはめになったため、足が不便で、コネもなく、成都&方向音痴の私にとっては、かなりハードな毎日となりました。

そもそも、貧乏フリーランスにとって最初に痛かったのは、国際的なイベントが行われるためか、はたまたチベットが近く、怪しい外国人をシャットアウトする必要からか、成都で外国人が泊まれるホテルが極端に限られていたこと。予算内で泊まれるホテルが見つからず、最初の晩はあやうく野宿を強いられそうになりました。1994年に生まれて初めて北京に行った時も、同じ理由で「半野宿」(夜の前半は野宿、後半はガードマンの恩恵でロビー泊)となったので、「成都でも??」と危ぶみましたが、最終的には深夜に何とか宿をゲット。翌日にはまだ予算以上とはいえ、比較的安い宿が予約でき、ほっと胸をなでおろしました。

さて、寝不足のまま、翌日の午後「いざ観劇!」と繰り出したところ、待ち受けていたのは、メイン会場のだだっ広さと、ずさんなスケジュール管理という難題。
入り口のスケジュール表には、ステージの番号と演目しかありません。その演目がどこの国のどんな団体のものなのか、ステージは地図上ではどこにあるのか、そして肝心の「何時に始まるのか」といった情報がゼロ。仮に各ステージに行き、次の公演の時間を聞いても、その時間通りに始まるとは全く限らない。演目の内容については、メディア関係者であることを主張したため、かなり詳細な資料をもらうことができましたが、一般の参加者は私たち以上にちんぷんかんぷんだったはず。

しかも各ステージ同士がかなり離れているため、離れた場所にあるステージまでわざわざ行き、「次の公演は2時間後」または公演そのものが「中止」であることを知った時の脱力感は並ではありません。
レンタル自転車があったのが救いですが、1時間10元だったので、毎回レンタル料が入場料(20元)を上回ることに。それでも、移動距離に見合う観劇のチャンスが得られたとはとても言えません。

その上、週末は人ごみの多さに圧倒され、「あー、四川は重慶が直轄市になるまで、中国で一番人口が多い省だった!」
という昔得た知識を再確認させられました。特に観客席のない屋外ステージは大変で、ちびの私が観られたのは、「公演が終わって片づけを始めた舞台」だけということも・・・。


↑週末は肩車のオンパレード

市内の他のステージに至っては、観劇のハードルはさらに高く、
一番の問題は、事前に得られた情報が少なく、メイン会場以外の公演チケットはすべて事前に無料で関係者や成都市民に配られてしまっていたことです。
そのため、高い入場料を払わされる遊園地での公演を除いては、部外者がチケットを入手することは基本的に不可。私たちは仕事上どうしても観ておきたいステージだけ、関係者に頼み込んで見せてもらう、という方法をとるしかありませんでした。

途中である「救世主」に偶然出会い、一日だけその方のコネで楽チンができましたが、他の日は、「行っても観られるかな〜、無理かもしれないな〜」という不安な気持ちを抱きながら劇場に向かうことに。

そんなこんなで乗り越えるべき障害は次から次へと現れたわけですが、きわめつけは、各会場までの公共の交通手段が手探りだったため、郊外の劇場から帰る途中でどしゃぶりの雨に襲われ、屋根のないバス停で濡れ鼠になりながら、次に乗るべきバスが分からず途方に暮れる羽目になったこと……。

が、これらの体験記はあくまで「次回は頑張ってね」という思いを込めて書いているだけであって、イベントそのものにケチをつけるつもりはまったくありません。

むしろ、公演の内容はそれらの苦労をすべて忘れさせてくれるものばかり。よくぞここまで!と思うほど、各公演内容は多彩で充実していて、大学生ボランティアたちもとてもよく頑張っていました。このイベントを通じ、人形劇のもつ無限の可能性に魅せられたのは、筆者だけではないはず。


↑エジプトの人形劇団が演じた「ゴーハとその朝ごはん」

というわけで、このイベントについてはまた稿を改めてじっくり書きたいと思いますので、よろしくお願いします。