北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

無敵のつえ

実は今回の帰国は生まれて初めて「名古屋アウト」だったのだが、その時空港でとんでもなく細かなボディチェックをされた。

検査官の女性に、残すはパンツの中だけってくらい、体の至るところを触られ、靴の中まで見られた。松葉杖も、当然二重チェック。

それとは対照的に、中国人の夫はほとんどノーチェックで、出口で余裕たっぷりの様子。

その直後に、最近、中国人の麻薬密輸者が日本人女性とカップルを装い、女性にヤクを運ばせるケースが目立っているという情報が入った。松葉杖の中にしのびこませるケースも多いらしい。

「きっとあんたが怪しいって疑われたのよ」と半分冗談で夫に言っていたが、

今日聞いたニュースで、ドキリとした。

どうも六月末に起こったシンキョウでのはいじゃっく事故で、松葉づえが武器に使われたらしい。

犯人は機内に持ち込んだ松葉杖を突然四つに分解して、鉄の棒として使ったのだとか。確かに松葉杖ほど、空港関係者がなるべく持ち主のそばに置くよう気を使ってくれるものはない。その意味では、お金やパスポートでさえ、松葉杖には遠く及ばない。、

つまり、松葉杖がてろりすとにとって「無敵のアイテム」となったわけだが、松葉杖利用者にはずいぶん迷惑な話だ。これから、空港での松葉杖チェックは三重、四重になるかもしれない。機内食のフォークやナイフみたいに、機内ではプラスチック製を使ってください、なんてことになるかもしれないし、果ては屈強なフライトアテンダントが「おんぶ」なんてことも??それはそれでいいけど……

杖を使い始めたばかりの時、まだ新鮮だったこともあり、杖を一本腕にかかえて、機関銃を撃つまねをし、『セーラー服と機関銃』の主人公になった気分で、

「カイカン!」

などとつぶやいてみたりしたことがあるが、

あんなおふざけはもうやめよう。

少なくとも乗り物の上では。