北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

デトロイトとロボコップ

子供の頃過ごしたデトロイトのことを回想する文章を書いていたら、
ちょうどテレビで、デトロイトが舞台の映画、「ロボコップ」を流していた。最後まで見られなかったけれど、面白さは十分伝わってきた。

1988年に公開された「ロボコップ」は、近未来の2010年が舞台。
その時、デトロイトはとんでもなく荒れ果て、取り締まる警官のあまりの殉職率の高さに、警官たちがストを起こすほどになっている。そこに、殉職した警官がサイボーグ化され「ロボコップ」として登場する、というストーリー。
そういえば、デトロイトは今年の頭、アメリカの「みじめな都市」No.1に輝いたのだった。その主な理由の一つが、暴力犯罪の多さ。こうなると、映画の予見性には感心せざるを得ないが、と同時に、何にでも順位をつけたがる欧米的価値観の功罪に、改めて思いをはせる。

そもそも、「みじめな都市」にランクを付けて大々的に発表する必要なんてあるんだろうか?
イメージダウンによって、ますます投資家が敬遠し、デトロイトやその住民への偏見がひどくなるだけでは?
治安面や金融面の改善を促すためなら、その対策を検討する立場の者だけにデータを回せばよいはず。
でも、よく考えたら、市民が「こんなに悪いんだから改善して!」と声を上げる時の根拠にはなるかもしれないな。

もちろん、デトロイトの治安の悪さは今に始まったことではなく、私たちが住んでいた時もそうだった。夜、ダウンタウンを家族で歩く羽目になった時のこと。レストランから車までのほんの少しの距離を歩いただけなのに、父が怪しい男から「金くれ」と脅されたのを覚えている。すると、後に続く三人姉妹の私たちを指さし、父は「子供がこんなにたくさんいるのに、金なんてあるわけないだろう」と言った。その結果、これがびっくりなのだが、男は諦めて去って行った。

当然のことながら、そんなにすぐ引き下がる「半義賊的な」人ばかりではないので、真似は禁物。

デトロイト育ちのミュージシャン、エミネムの自伝的映画に「8マイル」があるけれど、当時から、8マイル以内はかなり治安が悪く、真昼間に多くの会社員が働いている会社の目と鼻の先で堂々と車が盗まれていくほどだったとか。

ちなみに、エミネムは私と1歳違い。同じ時期にデトロイトで小中学校に通っていたと思うと、これまた感慨深い。

トレーラー・ハウスで暮らし、貧困と差別の中で苦労しながら育ったエミネム。

そういえば、当時の私の友人にも、家が没落してトレーラー・ハウス暮らしになった子がいた。
暮らしが変わった途端に、彼女は周囲からどこか冷たく扱われるようになり、最終的に引っ越していった。その後、なつかしがって一度学校に遊びに来たけど、周囲の目は依然として冷たかった。私と彼女はベストフレンドに近かったから、関係は変わらなかったけれど、その時、デトロイトの人って貧しい人に冷たいんだな、としみじみ思った。

そんなデトロイトが、今や町全体でワースト1。しかも3位も同じミシガン州のフリント。デトロイトもミシガンも思い出深い土地だけに、悲しい。
あ、感慨にふけっている暇はなかった。
それより原稿書かなくちゃ。