北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

故宮の北門で思ったこと

北京、大丈夫?というメールを、最近日本から何本かもらいました。
そりゃ、中国の政治的シンボルである天安門に車が突っ込み、山西省の党のシンボル的場所でも爆弾が弾けたわけなので、いったいどうなっているの?という方がいるのもわかるのですが、郵便物が届くのが異様に遅かったりする以外は、特に生活に変化はありません。

ただネット上は、不安になるような情報がとびかっているので、心はそんなに安らかではないのは確かですが。

メディアに関しては、一応新京報も「見出し」だけではあれ、第一面に天安門での事を出せていたので、むしろ、ああ、出せたんだ、と驚きました。

個人的には、この事件と山西省での事件については、いろいろと思うところがあります。でも憶測にすぎないので、書くのは控えます。

ただ、一つだけいえば、陳情が受け入れられない、または受けたふりをして受け流される中国社会の構造の抱える問題は、夫が陳情者なので身にしみていて、すごーく分かるのですが、今回に関しては、陳情者の苦衷と絶望は、もっと奥にある問題の隠れ蓑に見えてしかたないです。もちろん、独立派のテロだなんて論外。

ところで、天安門近辺といえば、今回の事件とはまったく関係ありませんが、10月の連休明けにひどい目に遭いました。日本から来た友人を故宮に案内した後、あまりにも疲れ、しかも時間が差し迫っていたのにタクシーが拾えなかったので、故宮の北門近くで三輪タクシーを拾ったところ、

それがとんでもなく悪徳三輪車タクシーで、最初に提示した額の100倍の値段をぼったくられそうになったのです。しかも、人気のない、目的地からはだいぶまだ離れた胡同内に連れ込まれた後に、です。

以前、やはり都心近くで交通手段がなくて困った時、アメリカから来たお客さんを三輪車に乗せたら、幸いとても良心的な運転手で、お客さんもとても面白がっていたので、今回も「危なさ」は自覚しつつ、ついやってしまったのですが、今回案内していた友人は海外旅行経験があまりなかったこともあり、すごく怖い思いをしたようで、とっても後悔しました。

北京だってなかなか良い街だよ、ということを紹介したくて、三日間一生懸命案内した後だっただけに、自分の軽率さが悔やまれてなりませんでした。

その時、「次の被害者が出ないように」と、治安関連の各部門に順番に訴えに行ったら、次の事実が分かりました。

北京の道路の治安に関しては、管轄の公安局と城管(都市の秩序を守る職責の人々)、そして交通管理局が責任を負っているらしいのですが、三つの部門が連携しないと、こういう違法行為はきちんと取り締まれない、というのです。でも、そういう連携はまだできていない、とのこと。

比較的対応が丁寧だったある公安局で、
「地元の人でない観光者を騙す人は、中国中にいます。私たちだって、外地にいったらだまされかねない。海外にだってそういう事件が起こる国はたくさんあります」
と言われたので、
「でも、北京では起こらないに越したことはありませんよね。しかも故宮って中国文化のシンボルで、世界中から観光客が集まるところですよ」
と返したら、
「まあそうですが」
と苦笑していました。

そんなこんなで、例によってうまく「たらいまわしにされ」、「流された」わけですが、
本題に戻ると、当時、治安をもっとも守るべき天安門や故宮の周辺でさえ、実情はこんなもんなのだ、ということが分かり、正直拍子抜けでした。

もちろん、同じ故宮の隣でも、天安門側はもっと警戒が厳しいかとは思いますが、治安に「中国一」気を使っていそうな場所でも、怪しい違法業者たちは、けっこう自由に好き勝手なことができているもよう。万全に見える警備も、実は意外と盲点だらけなのかもしれません。実際、私たちが犯罪に遭った場所のすぐ近くでも、城管は立派な車から、辺りを監視していたのですから。

それにしても、
今回の激突事件でも、交通管理局と城管と公安は責任をなすりつけあったのでしょうか?

まさか、「海外にだってそういう事件が起こる国はたくさんあります」とは言わないでしょうが、

ちょっと彼らの言いわけを聞いてみたい気もします。