北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

うっかり過ぎた5周年

何週間も過ぎてから気付いた。

夫婦そろってすっかり忘れていたのだが、6月には結婚記念日があったのだ。
しかも5周年。

そこで、ちょうど互いに欲しがっていたものを贈り合って記念にすることにした。
蚊に弱い夫へは実用重視でテント型の蚊帳。
鳥好きの私へはインテリア用に竹製の鳥籠。

あれ、何か類似点が……。
そしてふと、銭鐘書の小説「囲城」を思い出す。主人公がイギリスのことわざを引用してこう言うくだりを。「結婚は金塗の鳥籠のようなもの。外にいる鳥は入って住みたがり、中にいる鳥は外に出て行きたくなる」。

結婚には確かにそういう面もあるのかもしれない。
でも、我が家の場合、カゴはまだ作っている途中って感じ。
というか、そもそも、カゴなんてちゃんと出来上がるのだろうか?

私たちは、日中の国際結婚カップルだから、
ここ2年ほど、万が一戦争がはじまったらどこに逃げようか、いつも頭の隅で考えている。
まず努力したのは、なるべくどこでも手に入る、シンプルなもので日々を暮らせるようにすること。
日本製のものがなくちゃストレス大、なんてことにならないように。

具体的にどこに行くかはまだ決めてないし、よっぽどのことがないかぎり、拠点は北京のままのつもりだけれど、
日中が軍事的に堂々と張り合い始めた昨今の情勢を見ると、
気分的に落ち着かないのは確か。

だから、カゴに入る入らないより、自分たちでカゴをくわえて遠くに飛べるくらいの体力をつけておかなくちゃ、とそればかり考えてしまうのでした。