北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

こけつまろびつの天津取材

おととい、列車で天津まで日帰り取材に行った。

まず電動バイクで北京駅に向かう。北京駅は近くに見えても、実際に近づくのはちょっと大変な駅。もちろん駐輪場もない。
だから、離れたところにバイクを停め、歩道橋を渡り、広場を横切ってやっとのことで駅の入口に着くも、
予約しておいた切符を受け取ったり、駅に入るゲートのところで切符の照合や安全チェックを終えたりするのに予想外の時間がかかり、やっと構内に入った時はすでに発車5分前。

松葉づえで必死で乗車口に突進するが、タッチの差で間に合わず、断念。
同じような客は多いらしく、無事切符を次の便に交換できたのがせめてもの救い。
ただ、発車は1時間後。しかも、もともと天津駅着のはずが、天津西駅着になり、計画がはなから狂いまくる。

北京ー天津間は現在、30分強で北京南駅から高速列車が走っているが、今回は北京駅発の安い切符を狙ったため、片道2時間かけて天津西駅に到着。

まず驚いたのは、駅の構内のわけのわからないほどの広さ。とにかく乗り継ぎのために歩く、歩く。
これから天津に行く時は駅をまともに出るまでの体力の消耗をちゃんと計算に入れるべきだ、と肝に銘じる。

今回はそもそもからして、「現地で情報収集」的な取材だったので、取材先で出会った人から情報を収集。
が、最初の目的地でいかにも地元通っぽい雰囲気を醸し出した天津っ子のおじいさんに、「あんたの探しているものは、もうない」と言われ、出鼻をこっぱみじんに挫かれる。

だが私たちもそれで引き下がるほどやわじゃない。偶然拾ったタクシーの運転手の言葉を半信半疑に聞きながら、さらに前に進む。
その結果、信じるのは半分だけで十分だったと判明。
頭で描いていた予想図を白紙に戻し、けっこうな郊外に行ったり、地名さえ分からない所でタクシーを降りたりしつつ、取材を続行。

私たちの前進をさらに盲目的にしたのは、スマホ時代に突入しているせいか、駅近くなどで手軽に買えると思っていた天津の地図が、なかなか手に入らなかったこと。結局、タクシーの運転手や現地の人が勧めるまま、東西南北も分からない状態で、地名だけを呪文のように唱え、突進。

挙句の果てには、反対方向の市バスに乗ってしまったり、下りたバス停が目的地から遠く、タクシーも拾えない場所にあったりと、まさに想定外の連続。

最後の取材場所でも、繁華な場所なのにタクシーがなかなか拾えず、やっと拾った一台が、「天津駅?あるのは知ってるけど行き方はマジ分からん」というトンデモタクシー。

やっともう一台拾い、天津駅のやはりやたらと広い構内を駆け抜け、まさに「こけつまろびつ」の状態でダダっとホームに下る階段を下り、自分たちしかいない車両に乗車した時はすでに発車1分前。終電だったので、これに乗れなかったら駅で寝泊まり?という一歩手前。

帰りは高速列車だったので、行きの2時間がバカバカしくなるほどの驚きの速さで北京につくも、北京南駅から夜行の市バスで北京駅に行き、さらに自転車と電動バイクで自宅に戻った時はすでに深夜2時。

前進、前進の連続で、全身の骨がばらばらになるかと思うくらい疲れ果て、翌日はほぼサビかけたブリキのロボット状態。いわば、前進(全身)筋肉痛。

信じられないのは、これは半世紀近く北京で暮らしてきた相棒にとって、初めての天津行きだったこと。すでに日本や中国の東西南北のいろんなところにも行っている相棒だというのに。

だから、取材の合間に行きたいところに行っていいよ、とスケジュール作成を全面的に相棒に任せたのだけど、結局のところ、それが裏目に。
行ったことがない分、天津を小さな町だと見くびっていたらしく、

初めてなんだし、もっとゆっくり見て回ろうよ〜とぼやきたくなる、超強行軍となったのでした。

ただその分、天津の意外な顔も見られて、すごく思いがけない一日になったのは、収穫といえば収穫。
とはいっても、これに味をしめて、猪突猛進型の取材が癖になるのは、アラフォーの私としてはちょっと避けたいです、やっぱり。