北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

春節カウントダウン

いやもうドキドキの毎日です。
こんなにドキドキしながらの春節って初めてです。

だって、隣の家から聞こえてくるんです。
「クヮッ、クヮッ」
と十中八九、春節のごちそう用に違いないニワトリの声が……

いつ「絞められて」しまうのか、今日か、明日か……

そういえば、以前読んだインドの小説でも、家庭の消えゆく風習を描いた部分で、
お祝いの数日前に生きたニワトリを買ってきて、
数日間自分の家で餌を与えて太らせてから絞める
という描写が出てきました。
でもその数日間に子供がニワトリに情が移ってしまってひと悶着、というお話。

もちろん、私が普段食べているお肉もみな絞められたもの。
だから隣人を残酷だと責めるつもりはまったくありません。むしろ、いつも目をつぶっておいしい所だけもらっている自分がちょっと恥ずかしい。
「お肉をいただく」過程を自分で見届けられるというのは、大事なことなのでしょう。

欧米の食肉工場に勤めたという友人の話では、工場ではベルトコンベアの上にニワトリを吊るし、まだ生きたまま次々と羽をもいでいくとのこと。
中国でも、やはり鶏肉工場に勤めたことがあるというおじさんが、一生鶏肉は食べないと言っていました。深くはつきつめませんが、やっぱりきっとそれなりのことをしているんでしょう。

自宅では生きたまま羽をもいだりはしないでしょうから、家で絞めるなんて、むしろ慈悲深い方なのかもしれません。

何はともあれ、ここ数日は春節カウントダウンです。

旧暦12月の8日には、まずさまざまな豆や穀物をお粥にした「臘八粥」(ラーバーゾウ)を食べました。

この日に、ニンニクを酢に漬けて、「臘八醋」(ラーバーツゥ)も作りました。

それが二十日後の今日はこんな感じに

ちょっと緑がかってきています。そろそろ餃子のお供に良さそう。

その間は、暇を縫って鼓楼の西に中国漫才を聴きに行ったり

天津の年越し用品市場で民芸品を買ってみたりしました。

そこで見つけたのがこれ。

北京でもかつては花児市で盛んに作られていた、モールの髪飾りです。
モール自体まで手作りで、ほんとうはとても手のかかる品なのですが、
工場での量産品のモールが普及している昨今は、
その「手作り感」が見過ごされやすく、
ほんとうに残念。

最近は、市場で買った切り絵を自宅のドアに貼ったりもしました。

このほか、外では、春節を先取りしたいのか、気の早すぎる爆竹マニアが、
時おり爆竹を鳴らしています。

そんなこんなでそれなりに「年味児」(年越しの雰囲気)はあるのですが、

その一方で、北京の工芸品デパートのおじさんが先日、
「最近は通りに出ても、春節が来る感じがあんまりしないんだよな〜」
と残念そうに言っていたのにも、けっこう頷けてしまうかもしれません。

理由は恐らく、胡同が減り、地元っ子も減っているから。
それに、若い人たちが前ほど春節の風習を重んじなくなっているから。

となると、隣のニワトリの声にドキドキできる私は、まだ幸せなのかもしれません。