北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

今日は幸い、ケン・ローチ監督の新作『I, Daniel Blake』を鑑賞することができた。

滑り込みでEU映画祭に間に合ったお陰だ。

徹底的に弱者の側に立った『I, Daniel Blake』には深い共感を覚え、
何度も涙腺がゆるんでしまった。
福祉制度はいくら一見立派でも、合理化がもたらすひずみや、「人間性」の欠如や、
為政者の本音や、見えない差別と無縁ではいられず、ゆえに、ゆがみや落とし穴に満ちている。

最初はちょっと差別意識を持っているように見えた主人公が、
実は同情心に満ちた「いい人」で、
しかも「いい人」であるがゆえに、
どんどんと「這いあがれない」状況に陥っていくのが、ぞっとする。

「チャイナ」と呼ばれているアフリカ系の男性のたくましい商魂の描写は、
中国の製造業の不正をかなり直接的に皮肉ったものだったが、
チャンスに恵まれない者の立場を考慮した、良質のユーモアだったせいか、
会場からはくったくのない笑い声が上がっていた。

そして、何ともやるせなく、悲しいのがラスト。
会場全体から拍手が起こったのは、
やっぱりみんな、何か感動を形にせずにはいられなかったからだろう。

次に夜更けの映画館で
『ダヴィンチ・コード』で有名なダン・ブラウン原作の『インフェルノ』を鑑賞。

普通のハリウッド映画という感じではあったが、
テーマは地球人口の膨張やテロの問題に踏み込んでいて野心的だった。

イタリアやトルコの美しい遺跡の風景がわんさか出てくるので、旅心も強くすぐられた。
アクションも派手だったし、実は「007」的路線もめざしているのだろうか?

ちなみに、いずれの作品も何ともいえず「痛々しい」おじさんが主役で、
タイプこそ違えど、けっこう「怖い」。
人生の末路と、世界の末路、やっぱりいずれも楽観はできそうにない。

こういうのを観た後は、一人で夜中12時近くに電気が消されかけた映画館から出てくるのなんて、
怖いうちに入らない。