北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

空飛ぶ台所とカマキリの鎌

ある日、相棒が買い物から帰って来た。

新品の電化製品を持って……

「ほら、まだあなたは回れるはずよ〜」とだましだまし使っていた換気扇がとうとううんともすんとも言わなくなったからだ。

新しく買ってきた換気扇は真っ赤。しかも工場用しかなかったとかで、ものすごい風量と音。

うちの台所は小さくて天井もとても低いから、そんな換気扇をつけたら、まるでヘリコプター。さあ、これから空の旅に出発!って勢い。

空を飛ぶのが夢なので、妄想にはぴったりだけど、何せ「プロペラ」だから、鍋の煮立つ音がぜんぜん聞こえないのは困りもの。

もっとも近所の子供には大人気で、子供が来ると、ついサービスで回してあげたくなってしまう。

空飛ぶ台所へようこそ!でもヘルメットは必携だよ。


ところで、台所がヘリコプターになったその同じ日、相棒の手にはもう一つ別のものが。
「ん?バドミントンのラケット??」
でもなんかちょっと形が違うな〜と思って見ていたら

「こいつで蚊を打ち殺す!」と得意げに取りだしたのは、「ラケット型蚊叩き器」。
形はテニス・ラケットだけど、網のところに電気が通るようになっていて、
振り回すとそこに当たった蚊を退治できる、という代物。

中国独特のものだろうと思ったら、使用法の説明は多国語対応。輸出してるのかな?でも日本語はない。充電式だから、電圧が違うところには輸出できないからだろう。いや、それ以前にこんなもの、日本ではお巡りさんしか手にしちゃいけないような気も。

相棒は蚊が「大大大」嫌い。蚊の羽音が聞こえると、寝ていてもカマキリになる。
目が超真剣な緊張状態に入り、ものすごい勢いで攻撃開始……。
いやいや、カマキリは「好き」で虫を食べてるんだろうから、この比喩はちょっと違う?

でも、今は夏で頭が丸刈りだから、目が真剣になると、まさにカマキリ。しかも今はラケットがあの鎌に見えてしょうがない。
(他人の目には殿様バッタかもしれないけど、そこは身内のひいき目ということで……)

でも、こっちとしては、狭い部屋で電流の走るラケットを振り回されてはたまらない。スイッチオンのときに誤って触れると、けっこう痛いしね。

しかも、その出どころは電化製品店でなくて市場。市場で電化製品を買うと、漏電か爆発で家が燃えてなくなるぞ、といつも脅しているのに……。

というわけで、とんでもないものが来てしまった。

でも、ゲーム感覚で蚊が退治できて、運動不足とストレス解消にはなるかな?ほんのちょっぴり。

いや、私はまだ未体験ですよ。大喜びで振り回したりなんてしてません。
そんな殺生なことはけっして…。