北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

スウェーデン映画万歳!Metropia とSound of Noise

今、なぜか自分の中でスウェーデンブームで、しかもちょうどそのぴったりのタイミングで「スウェーデン映画祭」が始まった。
さすがに全部はあきらめたけれど、作品はなかなかの粒ぞろいだった。
なかでも予想をはるかに上回る面白さだったのが、
Metropia(メトロピア) と「Sound of Noise」。

Metropiaの方は中国語タイトルは「地下理想国」。



近未来の、ヨーロッパ全体が地下鉄で結ばれた時代の話なのだけれど、地上はとても荒廃しきっていて、テレビや地下鉄を利用した監視の網が張り巡らされている。人気のシャンプーを買うことで、幻聴が始まり、シャンプー会社のコントロールの対象になってしまうなど、かなりドキッとさせられる設定も。

ストーリーの面白さに輪を加えて魅力的だったのは、写真を使った独特のアニメ―ションの手法。実写も交えていたりと、視覚的にかなり新鮮だった。

相当シュールな世界を描いているんだけれど、増幅された人間の感情の描写とか、環境が破壊されて四季がなくなっていたり、見えないところで大きなシステムが人間を見張っていたり、といった背景設定は、妙にリアル。

でも、暗いばかりでなくて、どこかとぼけていてユーモラスなのがいい。
主人公は妻の浮気を疑う疲れたサラリーマン。でも、嫉妬に悶々としているくせに、シャンプーのCMの美人イメージキャラクターが歩いていると、会社に行くのも忘れ、ふらふらとついて行ってしまったり。
灰色の世界なのに、ハロー・キティがやたらと出てきたり。

しかも主人公の声がヴィンセント・ギャロ。これで個性が際立たないわけがない。

忙しいのにもう一度観に行きたくて仕方なくなった映画だった。
こちらに予告編↓
http://www.pronews.jp/column/hiromi-ito/0902101100.html

もう一つの「Sound of Noise」は、さらにぶっ跳んだお話。犯罪すれすれも厭わず、伝説の音楽を完成させようと街中を駆け巡るドラマーたちの話。



とんでもないものを楽器にし、社会秩序をめちゃくちゃにしてしまうから、当然警察に追われるんだけれど、そこに出てくる刑事がまた個性的。天才音楽家一家に生まれていて、名前まで「アマデウス」なのに、実は音楽センスゼロ。でも、最後には天才音楽家たちもびっくりのとんでもないものを「楽器」にしてしまう。

音楽ファンも音楽嫌いも、みんな思わず笑っちゃうんじゃないか、という映画だった。ちなみに私の隣の男の子は上半身で踊りながら観ていた。

入ってくる映画がかなり「ふるい」にかけられているのは残念だけれど、
こんな個性的で味のある映画を一本25元で観られる北京はやっぱりすばらしい。

ちなみに、今回観た4本の内、1本を除けば、残りは全部、出てくる夫婦が「二人とも」浮気する。先回読んだスウェーデンの小説もそうだったし、浮気自体は世界中でありふれたことなのかもしれないけれど、たいてい「二人とも」っていうのが、やっぱりアジアとちょっと違うな、と思った。