北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

胡同一号の七不思議 アンチ完結編

実は、先日胡同1号を離れ、今は日本です。
北京には相棒と影武者を置いてきました。相棒も、年末には合流です。

人生にはいろいろな曲がり角がありますが、今、私と相棒も曲がり角にいます。もろもろの都合で、いま今後の方向を二人で模索・検討中です。いずれにしても、北京の胡同が私たちの大事な「根拠地」であり続けることは確かですが・・・。

そんななか、
七不思議の残りの二つの謎、どう完結させようかと考えましたが、
第六は、やっぱり

サウンド空間の不思議さです。

北京のかなりローカルな居住空間なのに、日本のアニメのテーマソングや、中国のポップ、それに欧米のヒットソングなどのいろんな「生演奏」が聞こえてくるのです。

これに加え、胡同ならではの呼び売りの声や、包丁とぎが鉄の片をジャランジャランと鳴らしながらやって来るといった「生演奏」もあります。

こちらは録音ですが、インドのかなり本格的な音楽も聞こえてきます。

とにかく、その音の無国籍ぶりは、一瞬ここはどこだったっけ?と思うほど。
この間、ちょっと仕事のプレッシャーや個人的な事情でどよんと落ち込んでいた所、共同トイレに入ったとたん、オカリナの物悲しーい生演奏で「天空の城のラピュタ」のテーマソングがスタート。

「地球はまーわーるー、君ーをのーせーてー」

とくると、何だかめまいが。宮崎アニメは私も好きですが、場合が場合だけに、「私はほっといていいから、もう勝手にまわっててください」という感じです。

この情況、我が家の近辺に来た方はお分かりかと思いますが、家の近くのナンルオグーシアンという通りのインターナショナルぶりゆえです。

まず、同じ敷地の角に、インド人が開くかなり本格的なインド料理屋がある上、その向こうにはスペインの人が開いていて、かなり生演奏が大好きなバーが。
その北には、複数の店員がずっと生演奏をしながらオカリナを売っている店もあります。店員は日本のアニメソングが大好きなもよう。

これらの音が、夜などは、他の店の騒音と混じり合い、ウワンウワンと不思議な音響を生じながら、家まで流れてきます。
昔胡同一号に引っ越した時、多くの友達が「静かだね〜」と羨ましがってくれたのが、嘘のよう。

静けさが闇を濃くしていた胡同一号から、うなる音がピンクに染まった空を旋回する胡同一号へ。「都会の絵の具」にすっかり染まってしまったわけですね。思わず「木綿のハンカチーフ」を歌いたくなってしまいます。

でも、胡同にはこういうインターナショナルなところがあるから、私のようなボヘミアンもちょっと気楽なわけで、寂しいばかりでもありません。

そして、最後に、七不思議のラスト。

といくべきところですが、胡同一号の物語はそう簡単には完結しません。
謎も永遠につきないのです。というわけで、何とも無責任ながら、

「七は虚数、ただ、たくさんという意味」

という、中国の友人が「八」などという数字について良く使う表現をお借りして、煙に巻いてしまうことにします。

おつきあい、ありがとうございました。