北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

地主だけでなく泣く子にも勝てない

あと一、二週間で今の家から引越し、という時に、新たな隣人がやってきました。実は以前からの顔見知りなのだけれど、いざ「お隣」になってみると、意外な事実が。

それはその家の子供の夜泣きのひどさ。びっくりするくらい声が大きく、隣の家との間の壁はかなり厚いはずなのに、錐のように突き抜けてくるのです。あんまりにも悲痛な感じでかわいそうなので、かなり心乱されてしまいます。どうして人ってこんなに泣き声に弱いんでしょう。工事の音のほうがずっと耐えやすいかもしれません。

面倒をみているお父さんお母さんは私の何倍も大変だろうと思うし、夜泣きにははっきりした原因はないといわれているから、文句なんてとても言えない。ただ一緒にその時期が過ぎるのを待つしかないのでしょう。

それに、こういう家族-非家族の境界がちょっとあいまいなところが、良かれ悪しかれ大雑院らしさだともいえます。

ちなみに相棒の話では、今度引っ越す新しい家の隣人もけっこう強烈な印象の人で、呼ばれないのに勝手に家の中に入ってきて、おしゃべりをしていくのだとか。改装中は家のドアに鍵がかかっていないからでしょう。

さすが「串門児」文化の北京。「串門児」とは、近所のあちこちの家をめぐってはおしゃべりをして帰る北京の胡同っ子の習慣です。

これは、冷たくて話もしてくれない隣人とかよりかえって面倒なことになるかも??と相棒は心配顔。確かに毎日来たらたいへんだ。

でも、私の期待はその家の4歳くらいの女の子。
ぜひ、仲良くできたらいいな。