北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

新・胡同ライフ発車!

新たな胡同に移ってはや二週間。

まだまだ課題は多いものの、やっと荷物も何とかそれぞれの配置に収まり、部屋の中央を陣取っていた、荷物の八割を占めると思われる本も、まるで水でふやかした「ふえるワカメ」が干からび、またパッキングされたかのように本棚に収まった。コンロその他もろもろの台所用品やシャワーもやっとまともに使えるように。

だが、ここまでの道のりは伸びた首で結び目が作れるくらい長かった。

つらかったのは、引っ越し直後に雨が続いたこと。大雨が降ったある夜などは、台所が使えず食糧の貯蓄もないのに、外に食事にも行けない、という悲惨な情況に。そのため、初めて台所でご飯が作れた時は、まるで長期の放浪の旅から帰ってきて、久々に自分でご飯を作った時のように、ちょっと感動した。。。

普通のアパートで暮らしている方は、
「何がそんなに大ごとなの?」
と思われるかもしれない。
だが、平屋の改造は、思った以上に面倒が多いのだ。

そもそもまず、我が家の場合は、一つの小さな部屋に、台所、トイレ、シャワー、洗濯場のスペースを作らねばならなかった。それぞれの位置が不適切だと、平屋ライフはかなり快適さが落ちてしまう。
しかも、システムキッチンなんて置けるスペースも条件もない。

洗濯機の大きさ、温水器の設置可能な条件、便器の大きさ、水槽の幅、元の住民が置いて行った家具のサイズなどを考えながら、まるでパズルを解くように配置のシミュレーションを繰り返す。

その最中に、地下の排水管の位置が聞いていた話と違っていたとか、もろもろの寸法が考えていたものと違っていたとか、雇った人がやってくれるはずの仕事をやってくれなかった、とか、私と相棒の間の意思疎通ができていなかった、いったことが続出。

果たして、台所部分の改装の結果は「あれ、こうなるはずだったっけ?」といった様相に。混乱の中に秩序が、秩序のなかに混乱が、といった、言うに言われぬ、なんか変だけど、でも使い勝手はまあまあ、といった情況を前に、「まあ、改装なんて初めてだしね」と自分たちを慰めて、ひとまず落着。

一方、寝室兼書斎の方はまさに今中国で流行りの「DIY(Do It Yourself)」。少なからぬ荷物に居場所を与えるため、壁に棚をたくさん作りつけていくうち、華々しく??部屋のテーマが決定。
それはずばり

「硬臥」

いわば中国の二等寝台だ。もちろん食堂車つきの。
つまり、我が家では居ながらにして旅行気分が味わえることに。

というわけで、まずは発車オーライ。
せっかくなので、「走る胡同の家」とともに私と相棒も走り続けます。