北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

北京でもフェアトレード

中国のスーパーマーケットに行くと、
外国人ながらも、これでいいんだろうか?と思うことがある。
はみがき粉の棚はコルゲートを始めとする外国ブランドのものが大半。
チョコレートの棚もしかり。
これじゃあいかん、と思って、自分が比較的いいと思う国産の歯磨き粉を買っていたら、急に棚から消えてしまったり。
国産のチョコレートを試してみたら、やっぱり本物のカカオを使っていなくて、どうしてもおいしいと思えなかったり。最近は、比較的おいしいものも出てきているが、一押し、というものにはなかなか出会わない。

やっぱり、応援はなかなか難しい、と思っていたところ、チョコレートに関しては、先日日本でカカオ貿易をめぐるドキュメンタリーが流されていて、ますます普通の製品が買えなくなってしまった。カカオ農場での不正な児童労働、買いたたき、などが今のチョコレートの価格を決めているのかと思うと、チョコレート中毒者であるためになおさら、心が痛む。

でも、このお陰といえば皮肉だが、少しチョコレート中毒が治った。
とはいっても、禁断症状はたまに出るわけで、罪の意識とともにチョコレート製品に手をのばしつつ、やはりフェアトレードチョコレートの北京での出現を心から願う毎日に。

その思いが通じてか、決してチョコレートのチョイスが豊かとはいえないここ北京で、先日フェアトレードのチョコレートを売っているのを目にした。国産ではないが、場所はさすがのキューブリック・カフェ。良く行く香港系の単館上映映画館「百老匯電影中心」に付設した喫茶店だ。1枚50元近くだったと思う。さすがに日本のフェアトレード物並みに高いが、プレゼントなどにはよさそう。

その後、外国の食品を直輸入して売っている店、ジェニー・ルーでも一種類見つけた。こちらは少し安くて28元。
やっぱり製品はともかくとして、国内の市場は多様化しているんだな、と実感。

それにしても、日本の明治屋にあたるジェニー・ルーでも、最近はローカルの中国人の姿が増えたように思う。油や乳製品などをめぐる、国内の食品安全の問題への意識が高まってから、富裕層の中に、買えるならいっそ外国のものを、という人々も増えたのかもしれない。先日遊びに来た、私の中国人の友人も、外国食品チェーンが今、支店を増やしていると言っていた。

これを受けてか、大型スーパーの、外国食品売り場も充実しつつあるようだ。

でも、かといって、各家庭に洋食が広まっているかというと、そうでもない模様。
家の近くのスーパーは、3階建ての大きな総合スーパーだが、未だに生クリームもバターも、インスタントでないコーヒー豆も売っていない。
実際には、コーヒーや西洋料理を出すレストランは北京でもどんどん増えているのだけれど、それらはあくまでもレストランで飲み食いするもので、家庭料理には入り込んでいないのだ。

多様な中国料理が絶対多数を占める、マイペースな伝統的食文化と、外国食品の増加やフェアトレードの導入。
その両極端の距離が、一見どんどんと広がっているように見えるけれど、ふと考えれば、今はスローフードの時代。
そういった意味では、今も中国の農村で続いている多くの食文化は、むしろ最先端かもしれない。
こちらの話題に行くとまた長くなるのでやめるが、この意味で、伝統的なソーセージを家庭で作り、豆腐は豆腐屋が直接作りたてを売っていることが多い中国の食品文化は、やっぱり魅力的。

添加物が人間の寿命を延ばしたという説もあるようだが、
やっぱり食文化は進化論では語れないようだ。