北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

二つの脱出劇 in 広州

どうも鉄条網が張られてしまったようで、ここずっとかべごえができない。仕事に集中できるのはいいが、やっぱり井戸に落ちたカエルの気分。つい折り紙でカエルを作ってしまう。

先日、交差点を渡っていたら、目と鼻の先、それこそ2メートルくらい前で、二台の車がぶつかってびっくり。
両方とも交差点で曲がろうとしていた車で、そこまでスピードを出してはいなかったので、何だかスローモーションみたいに「グシャシャシャ」と音を立てて、車体がへこんでいくのが見えた。

車って意外と柔らかいんだなあ、と変なところで感心してしまったけど、考えたら、あと2メートル前を走っていたら、二台の間に自分が挟まれていた可能性もあるわけで、かなり冷や汗もの。

人生、危機とはいつも隣り合わせのはずだけど、間一髪とはこのことだな。

で、つい去年の広州での一日を思い出した。こちらの間一髪は、むしろ地理的な間一髪。

広州通の友人の勧めで、ある店の三階で庶民的な飲茶を食べていた時のこと。だんだんと焦げ臭いにおいが。
なんか、食べ物を焼いてるにおいじゃないな、こりゃ。と思いつつも、おいしい食事は逃せない、とむしゃむしゃと食べる私たち。

すると、何だか4階から人が逃げてきた。「隣のビルが火事だ」と。
それはおおごと、と私たちもすたこら逃げだす。
食いしん坊だったからこいつ焼け死んだんだ、なんて葬式で言われたら恥ずかしい。

でも、2階の人たちは気にせずのんびり食事をしていた。
いいのか悪いのかは分からないが、避難というわりには、逃げ出す人たちも、相当落ち着いている。
食事の席は何があっても余裕しゃくしゃく、とはさすが広州人!

逃げた後、外で眺めていたら、確かに隣のビルの屋根から煙がモクモク。友人もかなり驚いていたから、けっしてしょっちゅうあることではないらしい。

何だか、また「事件運」きちゃったね、と相棒といいながらも、でも死傷者が出るほどには見えなかったし、何といっても長らく夢見ていた広州めぐり。

対岸の火事そのもので、火事のことはすぐに忘れ、魅力尽きない広州を巡り、さらに旧市街地にある、友人の何とも素敵な下宿を訪問。

でも、楽しくおしゃべりに興じていると、向かいの窓に不思議な影が……

どうも、窓枠を越えて中に入ろうとしたが、入るにも入れず、出るにも出られずの困った状態になったらしい。
お取り込み中にごめんね、と心中あやまりつつも、滑稽な姿勢についパチリ。

何とも可哀そうだったけど、二階の窓なので、高すぎてそう簡単に助けるというわけにもいかない。階下の通行人にほら、大変なことになっていると指さしても、あらら、困ったわね、という反応だけ。別に広州の四足動物はすべて、煮て食われないだけ幸い、というわけでもなかろうに。

こうなると、自助努力でがんばってもらうしかない。

それに、何といっても猫。運動神経はいいはずだよね、と楽観していたら。
一時間ほど経ってもまだ

さすがに、疲労困憊して落ちちゃうんじゃないかと心配に。

すると、じっと見守る中、恐らく「渾身の力」を込めたであろうジャンプとともに、何とか窓の中へ。
がけっぷちの危機から脱した猫に拍手!

それにしても、一日のうちに、二つの脱出劇を体験&目撃とは。

ある意味、猫事件のほうが、感動的だったけど。
何だか、必死の練習の末、夕方の校庭でやっと逆上がりに成功した小学生を見たかのような爽やかさ。

でも、ふと思う。
こんなに応援しちゃったけど、あいつ泥棒猫だったらどうしよう?
あ、それより自分のかべごえの心配しなくちゃ。