北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

私は怪しい者ではない、と言う人ほど怪しいとはいうが

私の仕事は物書き、つまりフリーライターだ。でも最近、私を買ってくれていた編集者の辞任によって北京の雑誌の連載をやめたせいか、周囲から「あなたって何者?」扱いになりかけていることにふと気付いた。
実は日本の媒体に書き続けながら、まとまった文章を仕上げようとしているところなのだけれど、日本の雑誌や新聞を読める機会はこちらでは少ない。これじゃあ、正体不明と思われてもしかたない。

まとまった文章については、すでに企画段階を過ぎ、原稿そのものがぜんぶ仕上がっているものもあるのだけれど、どういうわけか、販路の問題から出版延期を繰り返されたり、出してくれる出版社が見つからなかったり、編集者の気が途中で変わったりして、まだ出せずにいるものが本4冊分ある。その内の2冊は今でもぜひ出したい、と思っているのだが、昨今の日中情勢や出版界の動向をみるに、順調に出版されるかどうかはかなり不安。

ちなみに「気が変わった編集者」の一人は中国の著名人で、あちこちで著作権を侵害したことによって、その後中国のネット上でさんざん叩かれ、長年の親友にまで訴えられた人。だから中国のどこかで、私が当時書いたものが、ちょっとだけ文章を変えられて本になっていてもおかしくない、とは思っている。
同じ原稿を自分で別の出版社に持ち込んでもいいのだろうが、その編集者に懲りたことと、私が取材した方が発表を嫌がっているらしきこと(編集者の言)から、諦めてしまった。

一方、連載の方は、アートライターとしての比重が重いけれど、このブログでも一部紹介している通り、守備範囲は胡同文化、文学、映画を含む文化全体だ。

ちなみに今、連載をしたり、ある程度定期的に書いたりしているのは以下の媒体。
●NHKラジオテキスト『まいにち中国語』巻末エッセイ
●朝日新聞『海外通信』
●ART SCAPE 「FOCUS」
●集広舎ウェブサイトのコラム『北京の胡同から』
●美術手帖『World NEWS』

出版された著書は翻訳物の方が多いので、翻訳家だと思われやすいのだけれど、正直、こちらは副職だとしかいえない。出版翻訳以外は今ほとんどやっていないので、収入がかなり不安定だからだ。

何だか、こういうことを敢えて書かなきゃいけないのってちょっと悲しいけれど、誤解が高じて「怪しい人」扱いになっても困るので、今日はちょっとだけ「私だっていっぱい仕事やってるよ!」と叫んでおくことにした。