北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

湖畔でのたて笛レッスンと二つの市場、および映画『二重生活』と『唐山大地震』

春節休暇中、友人と前海のほとりで、たて笛を吹いた。

なぜたて笛か?

事の発端は、中国の某地方都市出身のその友人から、
相談を受けたこと。
子供の頃から何の楽器もいじったことがないという彼女は、
40歳になった今、急に何か音楽を演奏してみたくなったらしい。

「どんな楽器がいいかなあ」と言うので、
私も深くは考えず、
「たて笛が簡単だからいいんじゃない?」
と勧めた。
だがその後、
「買ってはみたものの、どうもうまく吹けない」と言う。
そうなると私も責任を感じ、
ならば、と自分も小学生用の小さなたて笛を購入。
「さあ、一緒に練習しよう」ということになった。

たて笛とはいっても笛は笛だ。
狭い我が家で2人でピーピー吹いては近所迷惑になるだろうと、
天気が良かったこともあり、前海のほとりに繰り出す。

だが、ちょうどいい場所を見つけ、吹き始めてみて、すぐ気付いた。

隣でがやがやしゃべってる北京っ子のおじさんの声の方が、
二人分の笛の音より数段大きい。
オペラを歌うためのウォームアップだろうか、と思うほどすごい声量なので、
笛の音など、かき消されてしまう。

でもまあそのお陰で、ある意味、
音量を気にせず、気兼ねなく笛を吹けた。

だからそれはいいのだけれど、
もう一つ不意打ちが。

ネットで購入したという友人のたて笛が、どうもおかしい。
あまりにも音が出にくすぎるのだ。

代わりに吹いてみて、やっと分かった。
一応、スズキ製と書いてはあるが、
とてもそうだとは思えない。
どう考えてもニセモノだ。

つまり、友人がうまく吹けないのは、
けっして音楽に疎いからだけではなかった。

唯一の救いは、その日の夕焼けが、とてもきれいだったこと。
これはもう、あがいても仕方ないと、
二人で脱力感たっぷりにたそがれる。

その後、ふと考えた。
友人の場合、多分育った時代とも関係があるので、単純には比べられないけれど、
恐らく今でも、中国で裕福ではない家の子供が
音楽を演奏する楽しさに目覚めるのって、
日本の何倍も大変なんじゃないだろうか。

少し前、近くのわりと繁華な胡同で、
女の子が一人、恥かしげにサックスを練習していた。
公園など近くにないし、狭い家で練習するのも近所に悪い。
きっとここなら音もかき消されるだろう、と思ったのだろうが、
正直見ていて、いかに周りの目を気にしない子でも、
これは度胸がいるだろう、と思わずにはいられなかった。
ましてやその子はどう見ても思春期だ。

「がんばれ!」と心の中で応援したけれど、
その後、その子が練習する姿を見ていない。

他にいい練習場所が見つかったのならいいなあ。
あの前海のおじさんの声も、さすがにサックスの音はかき消せないだろうから。



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最後に、自分用のメモも含めて、最近投稿させていただいた文章のご報告を。
こちらは口絵しか試し読みはできませんが、
NHKラジオ中国語講座『まいにち中国語』では2月号の巻末のエッセイで年越し用品市場を
http://sp.nhk-book.co.jp/text/detail/index.php?webCode=09101022015
3月号の同エッセイではアンティーク家具市場を
http://sp.nhk-book.co.jp/text/detail/index.php?webCode=09101022015
紹介しました。

あと、こちらは有料になりますが、
「インサイトチャイナ」の電子雑誌の2月号でロウ・イエ監督の『二重生活』を
http://www.insightchina.jp/newscns/emag/201502/
3月号で馮小剛監督の『唐山大地震』を
http://www.insightchina.jp/newscns/emag/201503/
紹介しました。

ちょっと今、帰国の準備などで忙しいので、そっけないご報告でごめんなさい。