北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

70年のよしみin胡同

やった、開けた!数日ぶりのマイ・ブログ訪問。

少し前、ある記事で「公開されている」とされていた四合院を訪ねてみた。
個人の住居だったので、そもそも「本当かな?」と半信半疑だったけれど、行ってみたら、案の定、門が固く閉ざされていて、「見るなら、他の四合院を」と、張り紙の上に別の四合院が列挙されている。

でも、ここでちょっとだけねばってみるのが私たち。
門の前で話をしている住民に、
「やっぱ見られないんですかねえ」
と分かり切ったことを聞いてみる。
ちょっと微妙な顔をする隣人たち。

すると、運がいいことに、門が開いて、主人が出てきた。

「中、見せてもらいたかったんですが、やっぱだめですか?」
「ああ、だめだよ。外の人には見せられない。ほら、あの張り紙見て」
「何世帯住んでいるんですか?」
「3世帯いるからね。外の人が入ると、ごちゃごちゃしちゃうから」

そこでさっと、門の前にいた、恰幅の良いおじいさんが口をはさむ

「うそうそ、この人の一家だけだよ」

困った顔をして、主人がその隣人と話し始める。

「うちはだめなんだよ」
「でも、足悪いのに、わざわざ来てるんだぜ、この人」
「いや、だめだめ」
「見せてやりなよ」

押し問答が延々と続く。半分帰るふりをしながら、じっと見守る私たち。頑なな主人を前に、厚い壁を切り崩すように、会ったばかりのおじいさんが、知り合いでも何でもない私たちのために懸命に説得してくれる。

するとやがて、主人が

「じゃあ、見ていきな」

と手招き。「ラッキー!」と内心で叫び、お礼を言いながらと嬉々として入る私たち。

その家は、広くはなかったけれど、ちゃんと四合院の形がきれいに分かり、無駄なものが省かれた、素敵なおうちだった。
いろいろと話していると、そのおじいさんは生まれてから74年、ずっとそこに住み続けているとのこと。

「近所にもいっぱい古くからの住民がいるよ。さっき門の前にいた奴らも、みな幼馴染。あんたたちを入れるよう説得した奴もそうさ。今72歳だけど、長いつきあいだからね、あいつにはかなわん」。

つい感嘆のため息をもらす。70年来の隣人&幼馴染!
引っ越しばかりの人生を送ってきた私には、まるでおとぎ話の世界だ。

政治にせよ、所有制にせよ、波乱の半世紀を経た北京で、70年同じところに住み続けるのは容易ではなかったはず。もちろん、ずっと同じ面積が持家として認められたわけではないだろう。

改めて「70年」の友情のもつ重みにしみじみと感謝しつつ、心の底からほっとする。
再開発でかなりの数が郊外に追いやられているとはいえ、
まだまだ下町の北京っ子は健在みたいだ。

そして、私たちもがんばるぞ、と決意を新たに。
でも、70年は無理だなあ。