北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

八大胡同の諸相

前々から気になっていながら、なかなか手がつけられずにいたテーマ、それは北京の色町について。
ほんとうに奥が深いので、極めることなど、もとから無理ですが、今回、私なりにある程度まとめてみました。

http://www.shukousha.com/column/tada/2344/

東京でも京都でも北京でも銭湯通いをしたことがある私としては、やはり金秀卿の生涯は印象的です。
体の汚れはきれいに流し落とせても、妓女としての経歴をもつ限り、世間からはしばしば「汚らわしい存在」として扱われたはず。それでも、銭湯にこだわり続け、妓女たちを、女性たちを、そして自分の身を洗い続けた金の一生には、どうしても一抹の悲哀を感じずにはいられません。

実業家としても一流の嗅覚をもっていたようです。ただ、恐らく、日本人のために混浴の銭湯を設けたりしているため、これまで中国では正当な評価が得られず、解放後もほとんど名が知られることはなかったものと思われます。

今回、こういう人物の価値を掘り起こしてあげることこそが、自分にできることなのかな、とつくづく思いました。