北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

小さな策士

近所に住む幼稚園児のリャンリャン(仮名)は、時々「お気に入り」を私に見せてくれる。たいていはどこかからもらってきた「お古」だったりするけど、子供のいない私には新鮮。

ある日、リャンリャンはいろんな絵柄の横にそれぞれボタンが並んだ英語学習用マシーンを持ってきた。

「どうやって遊ぶの?」

すると、リャンリャンは待ってましたとばかりに、隣にぱっくりと開けた口が描かれたボタンを押す。

「バリバリバリ……バイト」

咬む音を流しながら、英語の単語「bite」が発音される。さすが、中国の学習用おもちゃの進化は著しくて、擬音がけっこうリアルだ。

でもリャンリャンは、「バイト」より、「バリバリバリ」が気になる模様。

「ほんとにこんな音かどうか試してみたい」というので、

「ビスケットだと、きっとそっくりだよ」

とビスケットをあげると、なぜかちょっとがっかりしたようす。

しぶしぶ受け取り、
バリバリバリ……。

「ほら、そっくりだ、ハハハ」。
でもリャンリャンは、棚の上のチョコレートクッキーを指さして、

「あれでも試してみたい」
「でも、あれはきっとバリバリいわないよ」
「うん、でも試してみたい」。

仕方ないな、とあげると、
ムシャムシャムシャ……。

「ね、あんまり似てないでしょ」

でも、リャンリャンはむしろ、さっきより嬉しそう。

「あ、策士め……」。

わかった。さっき、ボタンを押した時、こっそり目が棚の上をさまよったよね。リャンリャンは最初からクッキーが食べたかったんだ。

以前もらったクッキーがおいしかったから、また食べたい。でもストレートに「欲しい」と言えなくて、張り巡らした子供なりの策略。してやられたって感じなんだけど、どこかとっても子供らしい。
でもこの子、大人になったらすごいビジネスとか展開しそうだ。
先が楽しみな反面、ちょっとこわい。