北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

映画「エリシウム」とブラジル映画祭開幕

絶賛上映中ときいたので、「パシフィック・リム」を観に行こうとしたら、すでに上映終了。

気になる作品は封切りとともに見なければ!との後悔から、昨晩封切りになった、映画「エリシウム」を見てきた。

中国タイトルは「極楽空間」。この「極楽」という語彙の選び方にどんな意図があるかも吟味に値するところだが、実際はこの映画に出てくる「極楽」や地獄めいた「この世(地球)」が、その字面から想像されるほど遠い空想上の世界であるとは、とても思えなかった。

舞台は、すでに住むには最悪の状況と化した近未来の地球。環境問題、核汚染、移民問題、医療問題、格差問題、全体主義の悪弊など、まさに現在進行形の問題ばかりが反映された設定は、あまりにリアル。科学技術が政治を含む世界のシステムを牛耳ってしまうところなど、痛々しすぎるほどだ。

実はSFとしての設定が完璧かというと、つっこみどころはいくつかあって、それを補うだけのユーモアやファンタジーがもうちょっとあればなあ、とは思ったけれど、そんなファンタジーが入り込みづらいほど、現実の世界がすでに切羽詰まっているのかもしれない。

最後は一見、ハッピーエンドに見えるけれど、どうも最終的に地球や人類が救われるとは信じがたいところも、とてもシビア。

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もう一つ、おなじみの百老匯電影中心で昨日から始まったのが、ブラジル映画祭。こういった各国ごとの映画祭は、北京の人が海外の「マイナーだけどすばらしい映画」をスクリーンで観られる貴重な機会なので、日本にちょくちょく帰ることのできる私などが限られたチケットを買ってしまうのはちょっと申し訳ない。だけど、実際のところ私が日本にいる時期はごく限られているし、日本でもなかなか観られない映画が流れることも少なくないので、まさに「ごめんください」という感じでよくお邪魔している。


さて、映画祭の開幕と同時に上映されたのは、ブラジル東北部の音楽を奏でる有名なアコーディオン奏者、ルイス・ゴンザーガの伝記を、その息子でやがてミュージシャンとなるゴンザギーニャとの関係に焦点を当てつつ描いた「Gonzaga-de Pai para Fiho」。

中国語タイトルを翻訳すると「ゴンザーガ:父から子へ」。アコーディオンの響きとともに、ブラジルの大地や都市の香りが伝わってくる、映画としてもわりと完成度の高い佳作だった。

ストーリーは親子の葛藤とゴンザーガのミュージシャンとしての成功と没落がもつれ合いながら進んでいくのだが、全体を貫く妙味ある伏流は、実際のところは、この親子は本当に血がつながっているのか?というあいまいさ。

何はともあれ、最後は納得の結末で、音楽がつなぐ親子の情に、つい涙がほろり。観客にはブラジル人と思われる人も多かったが、彼らの中にも鑑賞後、涙をぬぐっている人がいて、おかげで何だかブラジルの人たちがぐっと身近に感じられた。

この映画館のいいところは、気に入った映画だと観客がみな拍手をするところで、この映画も大拍手に包まれて終了。来場していたシルベイラ監督も、きっとすごく手ごたえを感じたことだろう。実は上映中、途中で映像が前に進まなくなって、最後まで観られるか不安になっただけに、よけい「めでたし、めでたし」だった。

最後に、北京で観られる外国映画をめぐる拙文を、先日集広舎のコラムに寄稿させていただいたので、興味のある方はこちらもどうぞ。
http://www.shukousha.com/column/tada/2402/

実はここにも出てくる百老匯電影中心は近頃、サイトが攻撃を受けて修復中。
その後代わりにDOUBANというサイトを通じて告知をしているが、そこには「イベントがやれないなら死んだ方がまし」とのちょっと痛々しい言葉が。
ほんと、北京の映画ファンの希望の星なので、頑張って欲しい。