北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

日曜床屋の修正主義

実は、ずっと自分で髪を切ってみたいと思っていた。相棒のも自分のも。

そんでもって、とうとうある日、自分の髪を自分で切ってみようとしたが、やっぱり後ろの髪は不安。人間、見かけより中身とはいえ、イメージは大事。そう疎かにはできない。

そこで、冗談半分で相棒に
「髪切ってよ」
と頼んでみた。

切らせたら、切らせてくれるかもしれないし、おかっぱにして変だったら、すぐに美容院で切り直してもらおう。そんな魂胆だった。

相棒は一瞬言葉につまるも、「いいよ」との返事。

レインコートを着て、腰かけを出し、準備オーライ。
「肩にちょっとつくぐらいにしてね。暑い時しばれるから」

「よっしゃ!」と老舗「王麻子」のはさみを手に取る相棒。
私の髪はかなり長かったので、最初の一刀はさすがにひるむかな?と思ったら、何の躊躇もない手早さで
「じょきじょきじょき」
手には長さ30センチ近い髪。
「ワイルドだね〜」と笑うも、冷や汗タラリ。

この調子ならすぐに終わるかな?んでもって、すぐに美容院直行だ、と思いきや、右切ったり左切ったり、なかなか終わらない。

しまいに

「俺は修正主義者だ!」

と言いつつ、あっちを切り、こっちを切り、私も言われるままに頭を上げ下げ。
修正主義の意味にぼんやり気づき、さらにレインコート内の湿度上昇。
それに、何だかえらく首がスースーするぞ。

「おお、スバラシイ」

と微妙に日本語を混ぜる相棒に一層の不安を覚えつつ、
最後に鏡を見ると、髪は耳よりちょっとだけ下の中学生風おかっぱ。思いっきり大法螺吹いて良く言えばモダンガール風?

「え、肩につかないじゃん!」
「右と左の長さを順に合わせてたら、どんどん短くなっちゃってさ。気に入らなかったらもっと修正してあげるよ、どこ?」
「もういい!」

さらに徹底的な誤算は、相棒が今回のカットをいたく気に入ってしまったこと。
これじゃあ、すぐに美容院に行き直すのも悪い。

確かに、毛先は揃っているし、全体のまとまりもいい。
でも、イメージは、どこか、いやだいぶいろいろと違うんだが、どうすべきか……。

微妙に器用な自信家が誘う落とし穴にはまった私。
よし、やり返してやる!

「次は、私に切らせてね〜」
「え、やだ、絶対ダメ」

相棒は賢かった。