北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

見ようによっては

最近、よくジュースを作るようになった。

台所が狭い事もあって、迷いに迷ったが、結局誘惑に逆らえず、ひと月ほど前、やっと意を決して、小型のジューサーを買ったからだ。

100元以下なのに容器がガラスなのが嬉しく、洗うのも楽ちん。
ジュース作りの楽しいところは、好き勝手にいろんな組み合わせができること。
というわけで、ふと思い付くたび、あれこれ実験をしてみる。

今日の組み合わせは
リンゴ、セロリ、レタス、黒砂糖、水、レモン汁

すっきりした喉ごしで、わりとおいしかった。昔友人にも言われたけど、やっぱり私ってどっちかっていうと草食動物なのかもしれない。ベジタリアンというわけではないんだけれど。

おいしいと誰もが思うかはさておき、この色はきれいな抹茶色だな、と思っていたら、向かいで相棒が

「これは、鶏屎緑だ」と。

色のことを言っているらしい。いわば「鶏の糞」色だと。
私だって昔小鳥を飼っていたから、言っている意味はすごく良く分かる。確かに鳥の糞もこんな色。

だけど、分かるっていうのと、納得できるというのは違う。そもそもこれって飲み物でしょ!なら、「抹茶色」だと思って飲もうよ!

中国語の名誉のために言うと、中国語の方が日本語より上品な言い方をする言い回しだって実は多い。
昔、中国で「滴水観音(水の滴る観音)」と呼ばれている植物が、日本語では「クワズイモ」つまり「食えないイモ」と呼ばれていたと知って軽いショックを覚えたことがある。

そもそも外国語を知っていく過程には、詩を読むような楽しみがある。ああ、この言葉では同じ物事をこう形容するんだ、と気づけるのが新鮮で、
それが私にとっては外国語を学ぶ一番の醍醐味だといっても過言ではない。

だから、「鶏の糞色」っていう言い方だって、すごく面白いとは思う。それが自作の飲み物の色でなければ……。

とはいえ、私は知っている。相棒は悔し紛れであることを。
そのまま食べられるものを、ジューサーでわざわざジュースにすることを、相棒はずっと

「ズボンを脱いで屁をひるようなもの」

と、北京っ子がよく使う言い回しを使って、笑っていた。そのまま食べればいい物を、余計なことをしている、と。

でも、ジュースにして飲んでみたら意外とおいしかった。
それで「鶏の糞」で仕返しというわけだ。

こうなると、もっとおいしいのを作ってぐうの音も出ないほど打ちのめすしかない。
って、実は私が罠にはまっているのか?