北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

春風胡同

昨日、取材の後の胡同散策で。
ああ、風がもうすっかり春だなあ、と思っていたら、たまたま通ったのが、春風胡同。

とはいえ、とうに胡同は消失、このビルも下は不動産仲介会社。ああ、無情。

ちなみに、ここはムスリム街、牛街の近く。清朝の頃、ここにあった胡同は「王郷老胡同」と呼ばれていたという。
郷老とは、イスラム寺院の事務を敬虔にこなしていた人への尊称。春風胡同の名になったのは1965年からだとか(「北京地名典」より)。

牛街の再開発が終わった時は、なんてひどい開発のしかただ、と思った。でも、前門の再開発を経てみると、むしろこっちの方がましだったのでは、と思えてくる。やはり、従来のムスリム街としての特徴がまだまだ色濃く感じられるからだろう。

とはいえ、清真寺の前を通ると、以前の胡同の風景を思い出して、ちょっと涙ぐみそうになった。
春風が一瞬、胡同の神様を運んで来てくれたらしい。