北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

デザイン・ウィークの最終日を一日勘違いしていたために、あやうく見落としそうになった
宮門口ー白塔寺の四合院リノベーション案。

正直なところ、デザインウィークそのものには、
一見、チャレンジングでクリエイティブな表皮の裏にうごめく陰謀が感じられてならないのだが、
かつて、古くて不便でぼろぼろなだけと思われていた平屋エリアに、
デザインというものが持ち込まれ、応用されることは、やはりすばらしいことなので、
お金持ちになった気分で夢を見てきた。

道中は、チベット仏教風のこういうサインに、しつこいほど誘われ、目がチカチカ。。。


ここにも

そこにも

あそこにも!

……


そんな感じで、
ちょっと、お寺の縁日に来たような気分で着いたのが、まず一軒目。
屋根の木の組み方が素朴で気持ちいい。


庶民でも死ぬほど頑張ったら、
本当に死ぬ直前には買えるかもしれない面積?
いや、やっぱり無理かも……



次は、建てたばかりなのに、雨漏りしてて気の毒だったけど、クルっとしたカーブが面白かった二階建て。
ちなみに、雨漏りしてる横で、書籍の展示をしていて、ハラハラした。


こちらは、住むのは夢でしかないけど、喫茶店などになったら、
私でも入ってみて楽しめるかもしれない、素敵な空間。

深めのカクカク格子に挟まれた天窓が面白かった。


天気が良ければ、ぜったいに居眠りしたくなるはずのベンチ。









しかし、こういうデザインが胡同に溢れるようになった頃には、
私たちは胡同を追い出されているのではないか、
という不安は、どうしても胸をよぎる。

だって、ある統計によれば、この一帯の平屋の居住面積は、78%が15平米以下。
不法な建て増しを考慮したとしても、6割は15平米以下といったところだろう。
実際、エリアこそ異なれ、我が家も15平米以下だ。

でも、そういう小さな世帯が集まった大雑院型四合院を、
皆がそのまま住み続けられる形でリノベーションする、
という案は目にすることができなかった。


イベントのメイン会場では、持ち帰り自由のパンフレットを、
とある付近の住民が、ごっそり持ち帰ろうとしていた。
朝晩はずいぶん冷え込むようになってきたことだし、防寒用に窓に貼ったりするんだろうか?


都心に住んでいても、金銭的に余裕のない住民にとっては、
中庭のデザインより、雨漏りの修理や家庭用トイレの設置の方が喫緊の要事。


それでもやっぱり洗練された四合院を、と言うのなら、
貧乏な方々には、ひとまず出て行ってもらいましょう、ということなのだろう。


そんな空気を感じても、
これを機にマンション住まいを始めたいという人や、
私のような流浪の民は、まあ、なるようになるさ、とある程度は割り切れるけど、
長く住んできて、胡同に未練のある北京っ子は不安なんじゃないだろうか。


実際、このイベントの目的は何なんだ?
という問い合わせが殺到したらしい。


その答えは、恐らく、
北京の平屋地区が、実はすばらしい可能性を秘めたところだと気づき、その美しい未来を夢見ること。


でも思う。
夢は美しいけれど、夢だけ見てたら、
夢に食べられてしまう。
気をつけなくては・・・