北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

チェコ映画、「Alois Nebel」と意外な幕間

先日、チェコ映画祭で、どうしても観ておきたい映画があったので、ある小劇場に行った。だが、行ってみると、上映されるのは劇場ではなく、その横の喫茶店内にあるサロン的スペース。椅子も7つくらいしか並んでいない。

四合院を改造したこじんまりとしたアットホームな感じに、
こういうのもいいねえ、落ちつけて素敵だよね、と座り込む。

場所こそ小さかったが、上映作はチェコアニメファンなら垂涎ものの一作。

実写映像をロトスコープという手法で白黒アニメーション化した、「Alois Nebel」だ。中国語タイトルが「チェコ列車員」とある通り、さえない鉄道員アロイスがリストラされるまでの半生を描いた作だが、
「やたらとリアリスティックなアニメ」がもたらす独特の衝撃と映像美にノックアウト。あまりに面白くて字幕を読むのを忘れてしまうほど。

リストラされたアロイスを熱心に世話する、駅の食堂のおかみさんの包容力にも感動。恋心が動機とはいえ、このおばさん、そもそも他のリストラ組の面倒もおおらかにみている。

ビロード革命の時代を描いた映画なんだけど、後で調べたら監督のトマス・ルナク氏は何と私と同い年。つまり、映画で描かれた時代は高校生だったはずだ。そのせいか、複雑な歴史を無理に語ろうとはせず、幼い頃、母親がドイツに去っているという、前知識なしに入り込める主人公の背景を、伏線として生かしていた。

だが、面白いねえ、とのめりこむように観ていたら、意外なアクシデントが。
アットホームな環境ならではの意外なおまけだ。
つまり、上映半ばにして、機材がダウン。
聞くと、パソコンの調子が悪いから、だとか。

普通なら怒る人もいるのだろうが、こんなことならもう慣れっこ。
むしろ、「チケット代はお返しします。すみません」という劇場側の親身な対応に感激する。

そこで、「私、パソコン持ってますけど、使いますか?」
と提案。

じゃあ、やってみよう、ということになったのはいいが、うっかりしていた。
いざ接続すると、映画用のスクリーン上にデカデカと自分のパソコンのデスクトップが映し出されてしまったのだ。
これはちょっと恥ずかしかった。

背景にしている胡同の風景写真は相棒が撮ったものだが、実はあれこれイタズラしたもの。

胡同の壁には不自然に歪むように加工した相棒と私の写真がポスターのように貼り付けられているし、旧式の三輪バイクの窓からは、愛しのガリアーノさんがアコーディオンを持って顔を出している。

もういい年なので顔は赤くならなかったが、他の観客や劇場関係者が見て見ぬふりをしてくれていたこともあり、「早く映画に戻って〜」とそわそわ。
が、初めて映写機と接続するので、そううまくはいかないらしく、待つこと5分以上。

運よく映画の続きが見れたので、終わり良ければすべてよし。さっきのは相棒の写真の鑑賞タイムだ、などと、気を大きくしてみる。幕間だから「狂言」かな。

それにしても、大劇場でなくてよかった。
というか、大劇場ならこんなハプニングはないだろうけど。

何はともあれ、貴重な映画のラストが楽しめたことに乾杯!