北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

空間「楽漁樵」と清水恵美さんの個展

最近、中国では「小而精(小さくても精緻に)」を追い求める動きが流行っているという。

今はもう、スケールやサイズの大きさを求める時代ではない。小さくても精緻なもの、気遣いや思い入れの行き届いたものを大事にしよう。そんな志向が中国の一部の人々の間で生まれているようだ。

「大事なのは実際の大きさではない」というのはもちろん、芸術を愛する人々の間では、とうに自明のことなのだが、これまで中国の現代アートの展覧会といえば、やはりどうしても国際的でスケールの大きなものが注目されやすく、実際にアート界の動きにも、そういう展覧会が似合う、ダイナミックなものが目立った。

だが、経済情況の変化もあり、最近は北京のアート界にも、もっと内省的に自分の文化を見つめ、小さくても、自分が気持ちよく受け入れられる範囲のものを、という動きがあるように思う。

それが、従来の文化の範疇に留まる、閉じたものに終始してしまうとつまらないのだが、そこはアートが世界に開かれた時代の北京。普遍的な価値を追い、異なる文化背景の人も共感できる作品を作るアーティストにも、ちゃんと舞台が提供されているのが嬉しい。

実は先日、同年代の中国の人々との交流を通じ、実際に自分自身の五感でそういう場の空気を実感できる機会があった。

「楽漁樵」という空間で行われた清水恵美さんの個展「阡陌」を観る機会に恵まれた時のことだ。

若い夫婦が営んでいる、この「楽漁樵」という空間のコンセプトは、北京で長らく活躍してきた日本人アーティストの一人である、清水恵美さんの作品の魅力ととてもよく呼応していた。

中国における「伝統文化と現代の関係」というテーマの中で和文化や日本の芸術家が占めている位置のようなものも、ざっと紹介してみましたので、よろしければご覧ください。

http://www.shukousha.com/column/tada/2840/

最後に、先日張全の個展のお知らせをしましたが、この土日は北京の大気の状態が悪いようです。というわけで、興味を持ってくださる方も、あくまでもご自身の健康を第一になさってください。展覧会は三月末までありますので、健康に影響のない日を選んで参観いただければ幸いです。