北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

胡同で夜遊び

まだ胡同が夜、ちゃんと眠っていた頃、
よく相棒と自転車で夜の胡同を鑑賞した。

といえば聞こえはいいが、

つまり胡同で夜遊びをしていた。

最近は、年のせいか?わざわざ夜に遠出することは減ったが、それでも時々ぶらっと出てみる。
昨晩も、胡同の中にある喫茶店で映画を鑑賞した帰り道に、ちょっとうろうろしてみた。

そんななか、まず見つけたのはこれ。
こういうのはまさに、夜しか観られない顔。

「没有意義」は「意味がない」ってこと。
何のことか分からないけど、何かパンクっぽくていい。

次に、景山公園近くの健身楽園へ。
健身楽園とは、いわば市民に開放された簡易アスレチック・ジムだ。

つまるところ、大人用の遊具が並んだ公園なのだが、
なぜか景山公園脇のここには妙にリアリスチックな彫像がある。

何せ、北京の夜の公園はけっこう暗い。
だから夜、ここに来るとちょっと怖い。

でも、その怖さがなかなか魅力的。
そんななか、一番私のハートをつかんだのはこれ。

前にあるのは、市民交流のための将棋用のテーブル。
彫刻自体は前からあったけど、何だか前よりテーブルに近づいている気が……。

ちなみに、テーブルに座って見上げるとこんな感じ。

夢中になって写真を撮っている私を見て怖くなったのか、相棒が「もう行こう」と私を引っ張り出す。

「健身楽園通」の相棒が、こっちにもいい鉄棒があるというので、今度は隆福寺近くの健身楽園へ。

中学校の横にあるもう一つの「楽園」には、夜も煌々と文字が流れる電子掲示板が。
私以外は誰も見ていないのに、ご苦労(電気の無駄遣い)なことだ。

何だか痛々しかったので、珍しくじっと読んでみると、やたらとこんな言葉が。

「社会主義の核心的価値観」とは、どんな事情や理屈があっても、とにかくこの前にだけはひれ伏しなさい、という印籠だ。

眺めていると、何を偉そうに、と思う反面、追いつめられているみたいでよけい痛々しくも見えてくる。

そこで気分転換。

いつもなら、夏の夜の〆は羊肉のシシカバブにビールといったところだが、
今回は勇気を出してここへ。

日本に住んでいる人にはちっとも珍しくない光景だろうが、メニューのレプリカはローカル北京ではめったに見かけないもの。
しかも胡同にいきなり、となるとシュール以外の何物でもない。

なんとここは胡同の中でひっそりと開かれている、日本風居酒屋なのだ。

ずっとずっと前から入ってみたかったんだけど、どうしても勇気がなかった。
でも、胡同の居酒屋で一杯ってのも乙だよね、ってことで、えいっと暖簾をくぐる。

その正体は……。

みなさんのご想像にお任せします。

何はともあれ、このご時世にはありがたい存在。
しかも、胡同の中で「天城〜越え〜」のこぶしが聴ける店なんて、ここだけかも?