北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

アナウンサーか商売人か

またまたバオバオのお話。

友人のひっこしにつられ、
なぜか私も部屋を整理していたら、キューピーマヨネーズのおまけについていた、
ミニミニキューピーちゃんが出てきた。

日本では、あまり知られていないことかもしれないが、
北京のスーパーでは、マヨネーズとジャムのコーナーで、キューピーが大奮闘をしている。
棚をほとんど独占していることも多い。

だからその昔、ちょっぴりひまだった私は、
おまけでゲットしたすっぱだかのキューピーちゃんに、折り紙で折ったカブトと袴をつけては、
「これぞ最強の企業戦士だ!」などといって、
そのいかめしい響きと、おめめぱっちりの無邪気な顔とのギャップを面白がっていたのだった。

が、時は過ぎ、いまやそんな冗談は、あまり笑えなくなってしまった。
そこで、キューピーちゃんには生まれたままの姿に戻ってもらうことにした。

そして、このすっぱだかキューピーちゃんをもてあましたところから、今日のどたばたのすべては始まった。

ちょうどバオバオが遊びにきたので、わりと自分に時間があったこともあり、今日は何か新しいことをしよう、と画策。

そこで、この「身外無一物」キューピーちゃんのために、いろいろと作ってあげては?と提案をした。

粘土で帽子やパンツや敷布団を作り、紙で服、掛け布団、いす、ベッド、テーブルを作り……としているうちに、

「お家も作ろう」ということに。

そこで、ボール紙を折り曲げ、家を作る。
こうなると、お互い狭い家に住んでいるので、夢はふくらむ、ふくらむ。

「中二階を作ろう」
「屋根裏部屋を作ろう」
「あちこちに窓を開けよう」
「丈夫な柱を作ろう」

と、二人であれこれ作り足しているうちに、
こんな夢の家?が完成。

結局、バオバオは自分が作った帽子が気にいらなかったらしく、カブト復活。

屋根裏部屋にはどうやって登るんだ?というのは、今後の課題ということにする。

ここで、私はお昼を作りに台所へ。
その間、相棒とバオバオがえらく部屋で騒いでるな、と思ったら、

その後、部屋に戻った私に、バオバオがビデオを見せてくれた。
そう、二人は新しくできた家の素晴らしさを伝えるべく、ビデオを撮っていたのだ。

画面をみると、バオバオが家の横に立ち、プロのアナウンサーよろしく
「ここは、寝室です。ここに窓があって、外の景色が見られます……」。
と、えんえんと家のすばらしさを説明している。

しかも、合間に「東北大米」のコマーシャルが入る。
もちろん、みな即興。

す、すごい!
6歳にしてこの機転と落ち着いたしゃべり。
きっと将来、ものすごいアナウンサーになれる!

と舌を巻いたその直後、
「新居」はじつは、単なる取材の対象にはとどまらなかったことに気づく。

帰り際、「新居」を持って帰って遊んでいいよ、といってもたせたら、
「もらっていいの?だったら、売ってもいいよね?」
といわれ、またまた大ウケ。

そうか、さっきのビデオ、新居の紹介の部分もCMだったんだ!

でも、これは考えたら無理もないこと。
そもそも北京では、マンションを買う人はもちろん、伝統的な胡同の家に住む人であっても、「自分で家を設計して建てる」という経験はほとんどできない。

だから、子供の心の中でも家は、「個人の生活に合わせて作られ、家族のかけがえのない思い出を刻むもの」というより、「必要に合わせて売り買いする商品」というイメージになっちゃうのかもしれない。

何はともあれ、
アナウンサーか、商売人かわかんないけど、
なんだか、中国社会の荒波をりっぱに漕ぎ進む、
威勢のいい人生を送ってくれそうで、
バオバオの将来がますます楽しみになってきた。