北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

予想を裏切る面白さ Louis Sachar 著 HOLES

気楽に読めるペーパーバックを、と思い、児童書なら肩が凝らないし、いいウォーミングアップになるだろう、と思って買いつつ、しばらく放っておいたこの本。

ふと手にとって読み始めたら止まらず、一気に最終頁まで行ってしまった。寝食も忘れるとはこのこと。
一応、子ども向けではあるが、扱っている社会問題はけっこうシリアス。

主人公は、西部開拓時代のフロンティア精神を皮肉るかのような、「どうも何をやってもうまくいかない」「呪われた」家の血筋に生まれた男の子スタンリー。小説では、そのスタンリーの「あまりに苛酷な」体験の合間合間に、その家族の歴史、家族がかつて住んだ土地や、今住んでいる土地の物語などが挿入される。一見、ただの回想にすぎなく見えるそれらが、まるで謎解きのように、後でだんだんと意味をもってくる過程が面白い。

これだけでも面白いんだけれど、小説に厚みを与えているのは、バックにある社会問題へのまなざし。アメリカの人種差別や犯罪者の待遇、貧富の差やストリートチルドレンの問題、環境問題などが、たくみに盛り込まれていて、読み手が無理なくアメリカ社会のいろんな面に触れられるようになっている。苛酷な更生施設での無慈悲な労働力の「使い捨て」が、実はごく一部の人が不当に利益を売るためものだったなんて下りは、まるで軍隊を風刺しているかのようだ。

なかでもやっぱり重いのは黒人差別問題。かつてのアメリカ南部では、黒人と白人の恋愛はまさに命がけ。黒人が教育を受ける権利は著しく制限された。作中では、現代でさえ、ストリートチルドレンが犯罪を犯した場合などは、存在そのものが抹殺されかねないことが暗示されている。そもそも、弁護士が雇えないので、生きていくために犯した軽犯罪でも、厳しい処罰を受け入れなくてはならない。

大人のシビアな世界がどんどんと子供を襲うので、こんなに刺激しちゃってもいいの?夜中に読んだら悪夢見ないかな?って思うほど。でもあちこちで、予定調和的な世界観、キリスト教的倫理観のようなものが登場するのも新鮮だ。

ちょっとだけ違和感があったのは、体を鍛えることで、自分に自信が生まれ、心も鍛えられる、という観念が強く出過ぎていたことかな?でも、こればっかりはお国柄なのかもしれない。