北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

『京城81号』とシソジュースと血の池

我が家の近くに幽霊屋敷として有名な建物がある。
昨晩、その屋敷を舞台にしたホラー映画、『京城81号』を観てきた。

正直、中国のホラーをちゃんと映画館で観るのは初めて。一番近くの映画館では、チケットが売り切れて見られなかったのに、なぜか私たちがその日行った映画館では、夜11時半の回しかなかった。

そこは、ビルの地下のショッピング街の奥にある映画館。当然お店はもう閉まっているので、薄暗い通路を通り抜けて行くのはちょっとドキドキする。トイレなんて、さらに細くて暗ーい通路の奥にあって、行くだけで肝試し。

しかも、上映するホールはさらに地下に降りた所にあった。平屋暮らしに慣れているせいか、真夜中に巨大なビルの底にいると思うと、それだけでけっこう怖い。

だから、ホラー映画を観るにはいわば絶好の環境だったのだけれど
(鑑賞を終えたカップルの手つなぎ率70%)、
肝心の映画そのものは可もなく不可もなく、といったところ。
中国のホラー映画はまだ草創期。だから正直なところ以前はまだぜんぜんダメ、というものばかりだったが、これは最後まで観られる映画だった。

とにかく、ヒロインとその娘の小さな女の子の肝っ玉が私なんかより数倍すわっているのに感心。
ストーリーも、ちょっぴり破綻しているとはいえ、民国期と今がうまくつながっていてまあまあ。
ただ、クライマックスで流れる歌が『ラスト・コーション(色・戒)』と似ている気がし、それが気になって気になって気になってしかたがなく、集中力がそがれてしまった。

さらに気になったのが映画の売り文句。
舞台となっている朝内大街81号の屋敷を、「東洋四大幽霊屋敷」の筆頭と書いてあったので、
「じゃあ他の三つは?」と思ってネットを覗いてみたら、ある人が掲示板に同じ類の質問を書き込んでいた。その答えは以下の通り。

「中国の四大凶宅のことじゃない?だったら、上海の武寧路37号の林家の屋敷、南京の載笠楼、香港高街の麻風(ハンセン病)病院だよ」

これはぜひ、行ってみなくちゃいけないけど、まだ近所の「筆頭」格にさえびびって行けていない私だから、いつになることやら……。

一晩明けた今日、いつも有機野菜を届けてくれる「十字花蔬菜公社」から葉の裏が赤いエゴマがたくさん届いた。

いかにも北京っ子らしく、
「生のままゴマだれにつけて食べようよ」
と言いだす相棒をあえて無視し、

「たまには流行を追わなくちゃ!」
と、赤しそジュースを作ってみた。

出来上がった液体をみると、梅干しなどで見慣れているはずなのに、天然のシソでここまで鮮やかな赤が出るんだ、と改めて感心。
ホラーの続きじゃないが、血の池なんかに使えそうなくらい真っ赤っ赤だ。
『京城81号』の中にも、血がぶくぶく湧いて溢れるバスタブが出てきたが、あんなのにもぴったりかもしれない。

が、肝心の味の方は、入れるべき砂糖の3分の2をビワの花の蜂蜜にしたせいか、エゴマよりそっちの味が強くなってしまって何だかちょっと違うような気がする味に。

初挑戦で暴走はいけない。
ブレンドのコツがつかめるまでは、香りの主役は一人が無難だ。

でもまあ、さすが流行するだけあって、失敗してもそこそこおいしい。

となると、
しそジュースの池から手をうようよと出して
ヒロインを水の中に引きずりこむエキストラなら、
ちょっとやってみてもいいかもしれない。