北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

足にぐるぐる

初冬のある日、日本で買った新品のレッグウォーマーをつけて、さっそうと?我が家のある四合院の門をくぐろうとした。

すると、入口のところで、同じ院の仲の良いおばあさんに会った。そのおばさん、すかさず

「あらまー、どうしたの、だいじょうぶ?足にぐるぐる巻いちゃって」

一瞬言葉に詰まった私。

「だいじょうぶ。これはね、足をあったかくするためのもの。『護膝(ひざ当て)』みたいなもんよ」

「ふーん」とおばあさんは分かったような分からないような顔。

総じて、我が家の近所のおじいちゃんとおばあちゃんは、新しい現象に好奇心満々だと思う。若者の文化を自分達のものとは「異質」のものだからと、敬して遠ざけたりしない。ちなみに、近所の知り合いの内で最初に電動自転車を買ったのは、70近いおじいちゃんだ。

我が家を取り囲む昔ながらの胡同(北京の路地)に、最近アメーバのように広がりつつある若者向けのバーやブティック。まだ比較的若い?私でも入るのはちょっと勇気が要るのに、隣のおじいちゃんおばあちゃんは、正体をつきとめようと、好奇心丸出しで覗きに行くことも。

何百年も続いてきた伝統ある住宅街にいきなり若者文化の最先端が跳び込んできたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだけれど、その無邪気というか本能に駆られた行動力に、感服してしまう。

ちなみに驚くのが、わが家の近くでマクドナルドやケンタッキーに入ると、結構老夫婦がデート?していること。これは先回のブログで紹介した映画「老那」でも描かれていたけれど、本当の話。

でも、これって歴史ある街の特徴なのかな?ファーストフードはともかく、古いものを守りながらも、新しい現象にも好奇心旺盛、っていう意味では、京都もそうだった気が……。

でも中国の場合、彼らは若い時にデートをおおっぴらに楽しめなかった世代だけに、あの頃の空白を埋めようとしているのかも?と思えば大いにロマンチック。
それにしても、いくつになってもフライドチキンを食べられる、こちらの人の胃の丈夫さには脱帽!