北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

民国期ブームと消えた胡適故居

少し前に、中華民国期の教科書が話題を呼び、復刻版が本屋の店頭に並んだのを覚えておられる方もいるかと思います。

そのブームの火付け役の一人が、昨年北京の798で開いた展覧会、『先生回来』展を紹介した拙文が『美術手帖』2013年2月号に掲載されました。
http://www.bijutsu.co.jp/bt/
胡適をはじめとする、民国期の教育家10人の業績を示すさまざまな資料を通じ、民国期の教育界を見直した展覧会。挿絵のかわいい小学生向きの教科書だけでなく、当時のポスターや各種の雑誌も並び、グラフィック好きにも面白い展示でした。

残念ながら北京での展覧会は10月末に終わってしまいましたが、もともと最初は広州で開かれた展覧会で、その後年末から1月12日まで南京でも行われたようで、今後他の都市でも開かれるかもしれません。

ちなみに、表向きにはどこにも書いてありませんでしたが、『先生回来』展の英語訳は"Come Back Teacher"。
自由な討論の空間を開拓し、百家争鳴の時代を活きた気鋭の文化人たち。そんな彼らがいた時代の雰囲気が戻ってくることへの「期待」が感じられ、意味深です。

でも、新京報でも先日、胡適の故居跡をめぐる報道がありましたが、
http://www.bjnews.com.cn/column/2013/01/15/244361.html
http://www.bjnews.com.cn/column/2013/01/22/245439.html

胡適の存在を建築を通じて感じられる場所、故居は、すでにほぼ消え、その記憶も風化を待つばかりとなっているようです。
何とも罪深く、惜しいことです。