北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

ゴッホの「糸杉」が北京に 「メトロポリタン美術館展」開催

今日の私のテーマソングは、多くの人が耳にした「みんなの歌」の一曲。
「タイムトラベルは楽し〜メトロポリタン・ミュージアム♪」

重要な原稿の締め切りが明日に迫るも、
「アートだもんね、お仕事だもんね〜」と言い訳をして、足は天安門広場東の中国国家博物館へ。

目的は「道法自然――メトロポリタン美術館逸品展」(英語名には、「大地、空、海 西洋美術における自然」との副題)
を観るため。
ちなみに、開催期間は2月1日から5月9日まで。

展覧会の企画がどうか、作品の展示の仕方がどうか、というのは、ここでは置いておくとして、ともかく、作品一つ一つがびっくりの粒ぞろいだった。

美術館のサイトも、気合い満々の充実ぶり。
http://www.met2013.com/
(鳥マークをクリックすると展示作品が見られる)

悔しかったのは、会場で作品の詳しい解説を得るためには、各作品の前のプレート上のバーコードを読みとらねばならなかったこと。変な意地?でまだスマホを持っていない相棒&私。でも今後、このためだけに買うか、というとちょっと悩みどころ。こわごわとバーコード解説の今後の「普及度」を見守ることになりそう。

それにしても、このたび改めて、やっぱり原画はいいなあ、と当たり前のことに感嘆。

今回の目玉は、何といっても、中国のみならず、日本の展覧会でも初公開となったゴッホの「糸杉」。とにかく、糸杉のもつ、ものすごい生命力と存在感に圧倒された。糸杉はひまわりと同じくらいゴッホにとっては大事なモチーフだったらしいけれど、その意味がよくわかる。絵が発する「気」のようなものに捉えられてしまい、文字通り「くぎ付け」になってしまった。それを許してくれた、観衆のそこまで密集していない今日の環境に、心から感謝。

この他にも、モネ、ドラクロア、セザンヌ、ゴーギャン、ルノアール、ターナーなど、そこまで西洋美術に詳しくない私でも名を知っている巨匠の名作が続々。アメリカの画家の作品も、簡単に「良かった」と感想をまとめてしまうのは申し訳ないくらいで、すごく勉強になった。

自然がテーマだけあって、作品の範囲はかなり広大。名画シリーズに加え、紀元前8世紀のギリシャの銅像の馬とか、紀元前4世紀に始まったエジプトのプトレマイオス朝の青銅器の猫なども続々とお目見え。かと思えば、写真作品、しかも杉本博司さんの作品まであった。私などは、いちいち「おおっ」とびっくりしていたので、観終わるのに3時間近くかかることに。閉館時間が来なかったら、まだねばったと思う。さすが、コレクションの幅広さで知られるメトロポリタン。切り札、多すぎ!

おかげで「タイムトラベルが楽しい」のはよく分かった。ただ、隣同士の作品の背景の時間が千年くらい離れているものもあったりして、ちょっと酔ってしまったのが玉にきず。あと、事情はいろいろとあるんだろうけれど、蛍光灯がなければなおよかった。

東京の東京都美術館でも昨年末から今年頭にかけて、ほぼ同じ内容の展覧会が開かれていたようなのだけれど、両者の関係は不明。どちらのサイトを見ても、巡回展だとはされていない。展示作品数が、東京は133点、北京は127点と、若干異なるのも気になるけれど、何せ東京の方に行っていないので、比べようがない。ただ期間的に、どう考えても東京で展示された作品が、そのまままっすぐ北京に来た可能性が高く、私としては、少なくとも美術面では日中米間で平和な交流が行われているらしきことに安堵。

何はともあれ、メトロポリタンのコレクションが中国で展示されるのは初めてらしいので、もっと大きなニュースになっていいと思うのだけれど、宣伝がいまいちなのか、平日だということを考慮しても、そこまで観客は多くなかった。

ちなみに私は中国語のサイトを見て行ったので、中国国家博物館は事前に予約しなければ、並ぶことになるかも、と思って携帯のショートメッセージで予約を入れておいた。でも、日本語のサイトを見ると、パスポートを持って、西門の観覧券売り場に行けばOKとある。、一応、全体の入場者数は制限しているはずだけれど、少なくとも平日については、直接行ってもそれほど並ぶことはないと思う。

チケットについては、博物館の入館は無料だが、メトロポリタン美術館展は単独で20元とられる。
とはいえ、東京都美術館での展示は、一人おとな1600円。

もちろん、この充実度なら、1600円だって安いには違いないのだけれど、
正直、こういう時つい、北京にいてよかった♡と思ってしまう。