北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

我が家における主食の問題

同じ北京で食事をしている人でも、外食をしている人はあまり実感がないかもしれないが、
北京を含む中国の北半分は、圧倒的に粉食文化圏。

以前、家の外で、同じ四合院の敷地に住む河南省出身のおばあさんにばったり会った時のこと。ふとしたはずみに、「主食はいつも何を食べるの?」と聞かれた。

「お米のご飯とか麺とか、餅(ビン、小麦粉を水でこねて焼いたもの)も食べるよ」
「私はお米は嫌いだね」
「えっ、じゃあ何が好きなの?」
「麺がいいね」

日本で、年配のおばあさんに「お米のご飯好きですか?」と質問をして、「嫌い」と答えが返ってくる確率はどれくらだろう?と思ってしまった。質問した時点で、笑われるかもしれない。米離れが進んでいるという若い人だって、ご飯を炊くのが面倒だとかいう人はいても、食べるのが嫌いとまでいう人は、珍しいと思う。「ご飯」という言葉が「お米を炊いたもの」と「食事」の二つの意味を持っていることからしても、日本ではお米は食事の代表。「お米のご飯が嫌い」などといえば、食べることが嫌いというニュアンスに近いかもしれない。

幸い、相棒はお米もそれなりに好きなので助かるが、それでも主食はかなり小麦粉系に偏りがち。特に相棒は餅系が大好きなので、煮ものや炒め物には「大餅」、火鍋には「焼餅」ということも多い。それで私は彼を「ビンマン」と呼んだりしている。麺も、手打ち麺をわざわざ買いに行くほどこだわるから、朝がパンだったりすると、一日三食「主食は小麦粉」なんて日もざら。

実は私も小麦粉は嫌いではない。しかもパンにはちょっとだけこだわりがあって、最近は「古船」ブランドの食パンばかり買っている。それが買えない時は、お粥か、小麦粉をこねてナンを焼く。幸い、相棒にも評判はいい。というか彼の場合、餅(ビン)類なら何でも文句は少ないのだが。

残念なことに、最近「古船」ブランドのパンが手に入りづらくなったので、ナンを焼かねばならない日も増えてきた。でも、毎日となると、これがけっこう面倒。発酵に時間もかかるし。
なので、まとめて作ることにしたのだが……。

あれ?量を倍にしても、すぐになくなってしまう。

ずばりその理由は、相棒が「ビンマン」だから。

焼きたてが大好きらしく、多めに作れば、それだけ多めに食べてしまう。
今日は、七分焼きにして冷凍保存しようと思っていたものまで、ふと気が付いたら食べていた。
「あっ、それ生焼け……」
ぎょっとした顔の相棒。

昔、交通渋滞に悩んだ日本で、道路を作れば作るほど、かえって運転する車が増えて渋滞になるという話を聞いたことがあったが、ついその原理を思い出す。

もちろん、私も大好きな食べ物は多く買えば買うほどたくさん食べてしまうので、まったく相棒を責められない。むしろ、「ビン好きここに極まれり」とちょっと感心。さすが北方人!

でも、そのうち、バスケットボールくらいの大きさの生地をこねなきゃならなくなるんだろうか?
ちょっと心配。