北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

北京風代行サービス

喫茶店で仕事をして帰る途中のこと。


最近はなるべく電動バイクに頼らず
自転車で移動するようにしているのだが
じつは北京は平らに見えて、けっこう傾斜がある。


車に乗っていればほとんんど気づかないような勾配も
小さな自転車だとけっこうたいへん。


例えば、以前城壁があった二環路のあたりなどは、坂のように盛り上がっているので
片足しか力が入れられない私にはちょっとした難所だ。


運動不足の解消には最適だが、自動車も集中しているので
決まってここで電動バイクにすればよかった、とちょっぴり後悔する。
電動バイクなら、息を止めたまま走れるからだ。


もっとも帰りは夜10時半を過ぎていたので、さすがに道も空いていた。
そこで、カメの歩みとはいえ、鼻歌混じりでノロノロ坂を上っていると
道端に停まった車から声をかけられた。


「ダイジアマ?」
意味が分からない。
「何?道を聞いてるの?」


相手は何度もしつこく繰り返していたが、私の杖を見ると、
「ああ、違う違う」という風に手を振った。


その後、自転車に乗りながら考える。
「ダイジアって、代駕(運転代行)のことかな?でも、なんで私に?」


後で相棒にその話をすると、
「以前、お前の折りたたみ自転車に乗ってたら、同じこと言われた」
とのこと。


そう、北京では運転代行の人はしばしば、
折りたたみ自転車に乗って現れるのだ。


日本みたいに二人がセットになってサービスに現れるのではなく、
折りたたみ自転車を駆使し、近場なら自転車で、
遠ければ自転車をタクシーの荷台に載せ、
顧客の車までの間を行き帰りするらしい。


渋滞のひどい時も、混んだ所だけ自転車を使えば、
時間通りに顧客の元までたどり着きやすくなるのだろう。


それにしても、折りたたみ自転車で車まで移動って
エコだし、渋滞緩和や人件費節約にもなるのだろうけれど。
空気の悪い日とかだと、
ちょっと「人力車」的に人をこき使っているみたいで
使う方も気が引けそうだ。


とはいえこれも、私がカメみたいに走っていなければ、
気づかなかったことのはず。
やっぱりスローダウンすることで見つかるものって
けっこうあるみたいだ。