北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

晶文社のホームページの「スクラップ」が更新されました。
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近年、見る影もなくなってしまった粉房琉璃街。
でも、かつては北京で大好きな胡同ベスト3に入っていました。
だから、この写真を見ると涙が出そうになるのですが、
その一方で、マイペースな看板に心がなごみます。

写真の左に縦に並んでいる文字は、
安い、卸売、小売

その下はタバコの銘柄と値段

そして、台の上にはゴミと実物看板の境界を行く、不思議な物体。

男の子の頭の下には、
タバコは→(こちら)
そして、海賊盤かと思われる、「ディスク1枚2元」(安い!)。

ちょっと気だるくなるくらいのマイペースな空気。

それに私も染まってしまったのか、
ある日、仕事をやっつけに図書館に行く道すがら、
近所のおじさんに
「どうしていつもぼおっとしているんだ?」
と言われ、
「まさかそこまでどんぴしゃりストレートなことを訊くなんて」
という思いと、
「ほんとうにちゃんと聞き取れているのか?」という若干の不安から、
2度ほど
「えっ?今なんて?」
と訊き直したら、さすがにおじさんも質問がストレートすぎたと思ったのか、
私のリュックを指して、
「どうしていつも、山登りいくみたいな恰好をしているんだ?」
と質問を変えてくれました。

そこで私は、我が意を得たりと、
「まあ、そんなもんかもね。(図書館の)ビルに登りにいくからね」と回答。
だって「なんでぼおっとしているの」なんて訊かれても、答えられないじゃないですか。
ましてや、話す声がいつも近所迷惑すれすれなくらい大きなそのおじさんに、
「元気すぎるよりましでしょ」とも言えず……。

ちなみに、胡同の住民の名誉のために言うと、
いくらマイペースな空気があるといっても、
もちろん、皆が皆ぼおっとしているわけではありません、

背筋のぴしっと伸びた元気な人も多いし、
門を一歩入れば、「おわっ」とおったまげてしまうくらい、
すんごい「達人」がいたりもします。

地面のレンガを掘り起こして、ガンガン野菜を植えてしまったり、
家じゅうを植物やガラクタで覆ってしまったり、
リアクションに困ってしまうような、原子力搭載(?)の車を発明してしまったり、

(後ろの文字は「核の放射能、危険!」ただの防犯用だと信じたい)

といった「きわどい」系もいたりしますが、
そもそも、今みたいな時代に、「我が道を行きまくれる」こと自体、
「達人」の証拠なのかも。
いや、自己弁護ではありません。けっして・・・