北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

空気が良くなり、缶詰も終わり、日常が戻ってきた。

先日、日本で中国人観光客に人気の電化製品店を
テーマパーク的に参観し、その規模に改めて圧倒された。
でも、その時ふと、
こういった製品が普及し、日常的に使われる事で、結局のところ
電気の総消費量が上がり、従って(特に中国北方で)ガンガン化石燃料も使われ、
空気が汚れていってるんだよな。

と暗澹たる気持ちになった。
もちろん、大気汚染の原因は複雑なはずだし、
日本の電化製品は省エネ技術が高いから、まだまし、
と自分を慰めることもできる。それに、
やはり家庭からの汚染は、集中暖房に使われる化石燃料の影響が一番大きい、というのは体感的に感じるのだけれど、
中国で家庭用電化製品の普及が進んでいることは、疑いようのない事実だ。

何はともあれ、SFチックなほどシュールな汚染を目にすると、少しでもましな世界にするにはどうすればいいか、とやはり考えてしまう。
そこで思い到ったのが、もっと湯たんぽを利用しようということ。
正しいか分からないが、何だかエネルギー源は電気よりはガスの方がいい気がする(間違っていたら、誰か教えてください)。

さて、どうせ買うなら、昔ながらの湯たんぽが面白そうだ、と思い
ネットショップであれこれ調べて買ってみたところ、
届いたのがこれ。

一目見ただけで、まさにノックアウト。
先ほどの前置きなどぶっとんでしまう、
というか「単なる言い訳だったのか?」と思ってしまうほど、
この外観だけでもう、手元に置く理由は十分だった。

上が前代の湯たんぽ。右がおまけでついてきたハサミ。
ちなみに、このハサミは銅製湯たんぽ業界では超強力なライバルのはずの、
張小泉ブランドのもの。
ただ単に挑戦的なのか、実は同じ会社から独立したのかは、謎だ。

中国語で湯たんぽは「湯婆子(タンポーズ)」または、「燙婆子(タンポーズ)」
いずれも唐代からあるという「湯婆」に由来する。
日本の湯たんぽも、漢字で書くと「湯湯婆」だから、
もちろん由来は同じで、親戚関係。

さて、いよいよ実際に使ってみると、
これがまた予想以上に便利だった。
沸騰したての湯を注ぎ、厚い布団に入れておけば、
12時間は温かさが保たれているし、
翌朝、ぬるくなった湯で、顔を洗うこともできる。

胡同の平屋で過ごす夜は、足元が冷えやすいが、
夜更かしの時に、こいつを膝にかけた毛布の下に置いておけば、
まるで、こたつに入っているような気分。
「何ていい奴なの〜」
と、私があまりに嬉しそうにほおずりしているので、
相棒はある時、湯を入れたばかりの湯たんぽに向かって、

「お前と俺は『最好的搭擋』(最高の『相棒』)ではないが、
お前と麻美は『最好的搭擋』だ」

と意味不明なことを言っていた。

『最好的搭擋』というのは、最近観たSF映画『オブリビオン』の中国語吹き替え版に出てくる、生死を共にできるほど息が最高に合っていて、感情的にもつながり合っているコンビを指す言葉。

さすがに、湯たんぽと生死はともにしないだろうが、
夜型人間の最高の友って意味では、何だか確かにちょっぴり、
息が合っている気はする。