北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

掃除機のゴミを集める精神 二井康雄 『ぼくの花森安治』読後感

秋の気配は、そこはかとしか感じられず、じれったいかぎりですが、
本のご紹介の方はじらさないことにします。
表紙を見ただけで、なんかすごくいいなあ、と思ったのはこちらです。

昨年、相棒の張全の展覧会で書き文字を書いてくださった二井康雄さん(futai-site)の新著で、この8月、CCCメディアハウスから出版されました。表紙の絵は、佃二葉さんという方が描かれたそうです。

本書では、二井さんが『暮しの手帖』の編集者をされていた頃の体験、とりわけ名編集者として知られる花森安治さんの生き方や価値観が生き生きと綴られています。

『暮しの手帖』といえば、各社の製品を集め、その性能を比べた「商品テスト」が有名ですが、
印象に残ったのは、掃除機の「商品テスト」を行う際の、地を這うような地道な努力についての描写。

新聞紙をちぎったものなど、実際は掃除機が吸い取らないものを掃除機に吸わせるテストが多い中で、
『暮しの手帖』の編集部では、各家庭を回り、掃除機が実際に吸い取ったゴミを集め、それを分類して使ったというのです。

消費することとは、ゴミを出すこと。
製品の質はゴミの質にもなる。
たとえ、それが製品そのものの「廃品」ではなくても、
新製品とゴミはいろんな形でつながっている。

単純なことですが、なかなか意識が届きにくいことで、
とりわけ、高度経済成長期だった当時にあっては、とても斬新な発想だったんではないでしょうか。

そもそも、『暮しの手帖』の基本的な理念である、
誰もが自らの日々の暮らしを大切にするようになれば、
社会は平和でより良いものになる、という考え方は、
今の中国にいても、すごく頷けます。
自分の暮らしどころか、
ごく基本的な権利まで大事にしていない人が多すぎる。
もちろん、今は「今」だけでなく、「未来の暮らし」の豊かさを考える必要も増しています。

この他にも、花森さんの言葉や哲学の中には、
物書きとして、勉強になること、反省させられること、共感できること、
がたくさん出てきました。
とりあえず、一番実践したいなあ、と思ったのは

「切って血の出るようなプランを出せ」

できるかなあ。
自分が血を出して倒れて終わり、なんてことにならなければいいですが。